夜の夏
電灯虫

押入れの年月を乱しつつ
奥からあの頃がつまった
プラスチックな衣装ケースを取り出す。
サイドの留めを外し
外気に飛び出た空気を嗅ぐ。
服の折り重なりに手を入れて探り
小さくたたまれた私だった浴衣を見つける。
ラジカセ越しの囃子音が
黄色い むきだしの光と一緒にやってくる。
焼そばがおいしくて
焼き鳥もおいしくて
たこ焼きだってフランクフルトだって
カキ氷だってリンゴ飴だって。
三百円ばかしのハズレなしのくじで
ゲーム機が欲しかった。
風船ダーツでも輪投げでも
ミニバスケットでも。
水風船が上手く取れなくて
金魚すくいなんて いわずもがな。
でもでも その時々の戦隊のお面だけは
帰り道 頭に乗ってた。
差し引いて それでも満足だった。
熱気がはしゃぐ会場周辺を一緒に歩けば
その時間をかみ締めて カラコロ歩いた。
汗ばむ中でも 手も繋げて 色んな話もした。
その先は私だけの秘密だけど
あの気持ちは 
今も私の気持ちの基底に挟まってる。
向こう側から思わぬカップルを見てしまい
醒めた気持ちをとどめていた。
浴衣を格好良く着てて 薄く笑ってた。
八時三十分から九時まで上がる花火は
わずか三十分でも現実を穿つ。
少なくとも私は誰よりも特別 感謝してた。
パラパラと落ちる花火の欠片は
どこに落ちても いいんだよ。


小さい浴衣のほつれを直せば
浮かぶ私は飛んでいかない。
囃子音がまだ耳の中にあったって
うん まだまだ着れるんだ。


自由詩 夜の夏 Copyright 電灯虫 2011-06-12 01:20:34
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