あまみずの 水化粧
yumekyo

ただ 紺 としか言いようのない色の
ベニヤのようなうすっぺらい壁面の上に
サビだらけのトタン屋根がふわりと乗っけられている
建物そのものが 甘く針金で結わえられて
地球の上に ふわりと乗っけられているようだ
案内板も看板もなにひとつない
ただ 洗いざらしの「氷」が風にたなびくだけの小さな小さな店

買い食いなどさせなかった母が
珍しく僕の手を引いて店に入れてくれた
日が雲に翳ったとはいえ 盛夏の昼下がり
僕が「カキ氷食べたい」という前に母がカキ氷をふたつ注文する
しゃがれた婆ちゃんの手が 実にリズミカルに回る
ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる
金魚の柄のガラスの鉢に氷の結晶が高く高く積みあがっていく
さらさら さらさら さらさら さらさら

雷鳴とともに店が飛び上がったと思った
トタン屋根が泣き崩れるように音を立てた
母は全て予見していたのだ
山育ちの母は雨の匂いを嗅ぐのが上手かったのだ
カキ氷に匙を指したまま呆然と外を眺める僕の向こうを
駐在さんの自転車が走っていった
あっという間に泥濘になったムラの細い道を
材木を積んだトラックが走っていった

僕はまた田んぼの中の一本道を母に手を引かれて歩く
一時の驟雨を得て息を吹き返した稲が風に吹かれていた
畦道への入り口に植えられたひまわりが数本
西日に照らされて きらきらと咲いていた


自由詩 あまみずの 水化粧 Copyright yumekyo 2011-05-31 21:16:47
notebook Home 戻る