雨 雨 フレフレ
nonya
なんでもない休日の
中間点からおよそ50歩ほど
家に近づいたあたりで
やっぱり雨は降り出した
ありきたりの舗道を
無邪気に塗り潰していく雨粒
いつだって間が悪い僕は
もちろん傘など持っていない
濡らしてはいけないものなんて
何もなかったけれど
背中の強迫観念を動力にして
僕は自分を走らせていた
完璧な悲劇のシナリオがなければ
傘もささずに雨の中は歩けない
いつだって間が悪い僕だけど
さすがにそれくらいは知っている
前髪から滴る雫には
たぶん僕が何%か含まれている
水溶性の僕は水にはめっぽう弱いけど
少しずつしか溶けないからタチが悪い
雨 雨 フレフレ
かあさんは
死んじゃったから迎えには来ない
雨 雨 フレフレ
せめて小指だけでも溶けてなくなれば
途方もない約束をしなくてすむのに
最後の坂道を
歩く速度で駆け上がる
溶けた僕が
坂の下の排水溝に流れ着く頃
溶け残った僕は
溶けかかった声で
ただいま と言いながら
決して溶けてはくれない日常の
ドアを開けるのだろう