思い出し
電灯虫

停車した電車の速度は その潜在的速さの ほんの一部
駅間の距離も短いから なおのこと。
そんな速さで生じる 電車周りの気流は
その頬ざわりが 今頃の春を感じさせた。


線路沿いで機械による 野草の長さ調整が行われているから
気流に乗って あの独特の匂いがする。
小さい頃は 知らないままで そこの草の茎を折った。
折れたとこからは 汁は出ても 色はなかった。
でも 香った匂いは 植物の血の匂いだと思った。
今日 転んですりむいた擦り傷から 血がじわっと出た。
赤くて目立つけど 匂いがなく 
でも口の中だと 食べたことがないはずの 鉄だった。
そんな ちぐはぐは 
違いと同じを同時に起こして
未分化を抱えさせた。


降車駅に止まったから 電車を降りた。
同じように降りる人にぶつからないように
乗ってくる人にぶつからないように 気をつけた。
料金を電子的方式で支払って 帰り道を行く。


ランドセル背負った帰り道 雨はどしゃぶりだった。
ろくに歩いている人がいない中 傘をさして帰ってた。
向こうから 制服着た 二人のお姉さんが 
濡れながら こちらに走っていた。
僕を見つけて いいなー 入れてー と言った。
だから 一生懸命手を伸ばして 傘に入れた。
ホントに入れてくれるの? 優しいね ありがとう。
と言って お姉さんは傘には入らず 走りを継続した。
かわいかったと記憶してる。 髪も服も濡れていた。
すごくエロかったなー と今思う。


玄関を開いて 投函されている夕刊を 
直ぐ側の箱に放り入れた。
靴を脱いで 部屋に繋がる廊下の途中で 
鏡越しの 今日の自分を確認する。
それなりに疲れた顔していたら 
今日はいい日だった そう思う。


竹馬に乗れた日を 憶えている。
昼休みに 誰も遊ぶ相手がいなかった日で
体育館の倉庫にあった 竹馬を借りた。
他にも 年下の女の子二人に 男の子一人がいた。
お互い顔も見たことなかったけど 
広い運動場で 倉庫付近に一緒に居た。
直立に乗ったけど 進みやしないし 立ってられない。
近くで センタリングを要求する 声が聞こえて嫌だった。
何度目かは 正確でないが 前のめりで乗っちゃった。
そしたら 歩けた。
二歩,三歩。
向こうのポールまで。
反転して 元の位置まで。
竹馬が 伸びた足で
木で組まれた その竹馬が楽しかった。



明日のゴミの日に備えて ゴミを整理する。
一昨日食べた 食べ物が目に入り 
すまんと言いつつ 口を閉じる。
明日の早朝 マックでいいか と決める。
お出掛けに 必要な準備をし
明日の早朝の 占い結果を気にして 寝る。


自由詩 思い出し Copyright 電灯虫 2011-05-25 20:09:21
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