ひとりぽっちの青年
subaru★

濁流から逃れた君は空を仰ぐ
散っていった者は悔いがあるだろうと
ひとりぽっちの青年は いつまでも呟く

気休めの暗示も
上っ面のヒューマニズムも
しだいに溶けて何も残らなくなるだろう

かき混ぜてもコップの底は沈殿もせず
無色透明の混じりけのないタダの冷たい水に
その水が冷たすぎて潤せない

海になった家族の哀しみは
蒸発して雲になって
やがて雨になって海に舞い降りる

食卓での母のいつもの玉子焼き
リビングでの父とのたわいのない会話
妹との激しいチャンネル争い

散り散りばらばら 散り散りばらばら
散り散りばらばらの雨になって
青年の肩に落ちてくる

あの情景は帰ってこない
けれど カタチを変えて帰ってくる

ひとりぽっちの溜息は皮肉にも温かい
ひとりぽっちの青年の肩に雨が今日も降ってくる


自由詩 ひとりぽっちの青年 Copyright subaru★ 2011-05-25 06:43:37
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