23時のトラック競技
subaru★

23時の目覚め
「気が付きましたか?手術は終わりましたよ!」
オペ室のナースが俺の体を揺すった
体中に宇宙遊泳のようなチューブが施され
夢をショートカットして
俺は昼から夜へ一気に移動した

体が言うことを聞かない
大昔の熱血スポコン野球漫画の
養成ギブスを付けてる感じだ
腸閉塞防止の為 担当ナースの提言を守り
痛さを掻き分けながら トラック競技に一人向かう
あぁ 掻っ捌いたばかりの腹の傷がうずきやがる

消灯時間は疾っくの疾うに過ぎて
頼りない非常灯だけが灯す隧道 ひっそりとしている
誰一人いない 孤独なランナーだ
スタートラインはナースステーション
歩行器が今夜のペースメーカー
マイマイのように ユックリとユックリと這う

娯楽室前〜配膳室前〜トイレ〜エレベーター前
壁の時計の針が意地悪く高速回転
狂ったように針が回りやがる
へたった足がナースステーションの前まできた
はぁ こんなに歩くのが辛いのか
おぉ こんなに歩くのが誇らしいのか

2週目 後ろからコツコツと足音が俺を追ってきた
これが噂の院内に潜む幽霊か?と
段々と足音が近づいてきた
後ろを振り返ると推定8歳?の少女が
ナースさんの肩を借りながら
このトラック競技に途中参戦してきた

向こうは二人三脚
こっちはペースメーカーを除けば
孤独のマラソンランナーだ
お互い照れくさそうに軽い会釈を交わしながら
真夜中のトラックをユックリとユックリと
明日の為に自分の為に歩いた

彼女もそうだろう
今 病室で眠ってる人達も
明日の為に自分の為に歩くのだろう
息が少しあがり 病室へ戻った
少女も息が上がってたみたいだ
生きていると言う事を噛み締めた

今日は自分に勝った
明日も勝ちに行く
そう思うと体が一瞬 楽になった
明日も明明後日も10年後も これから先も
何度もスタートラインに立ち続けることだろう
闘う相手は他人でなく 自分自身ということだ


自由詩 23時のトラック競技 Copyright subaru★ 2011-05-24 04:36:41
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