水の流れるだから
アキヨシ

夕暮れの町に水が流れている
ぱしゃぱしゃやってる老人
水色の傘をさしている
ゆっくりと流されている
くるくると回転しながら
誰かが落とした躑躅の花
睫毛のような雌しべ
雌しべの長い女
水嵩がましている
子どもがぷかりと浮いて
きれいな声が聞こえた
私はそれで満足だったから
手で水を掬んで飲んだ
見ると何人か
同じことをしていた
だから夜になると
マッチを持った主婦が私に灯りをともしていった
ぽつぽつぽつと細長い火の柱が立った
水を飲む動作が規則正しくなされている
どこかで
「無理だ」
という声が聞こえた
だから私は、そうかもしれない、と思う
けれどなんのことなのかはもうよく分かっていなかった
だいぶ前から
だんだんと
水を飲む生き物になっていた


自由詩 水の流れるだから Copyright アキヨシ 2011-05-21 00:33:22
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