ガラスの丸
電灯虫

顔が歪んで映る。 緑の螺旋を含んで ガラスの丸がそこに在る。

ある日 おしゃれ眼鏡のおしゃれな若者が 
手の上で転がし 気分転換していた。
顔は歪んでも 気持ちは歪まず写る。
彼は 泣いた。
手で顔を覆う。 
丸いから 落ちた勢いそのままに 部屋の床を転がる。


転がっていたから 彼女は拾った。
片手に乗せたまま もう片手でトートバックを肩にかけ直す。
傷がないことを 歪んだ顔越しに確認する。
持ち主探して 周りを見る
探して 下見て 歩く人 は見当たらない。
陽射しが眩しくて 眼を細めて見ている。
うん 貰っちゃおう。
必要な分だけ トートバックの口を開けて 中に入れる。 
途中で 雑貨屋さんに寄り ピタリな台を探してる。
一つ一つの台に乗せ インテリアできているか 確認する。
ブーンと震える携帯 表示を見て 慌てて外に出る。
結構 様になってる台の上
おしゃれな 売り物然として 彼女を待ってる。


台に乗ってる おしゃれ玉に 眼を引かれた。
わー と声を出さないように 言う。
写る笑顔は歪んでいても お気に入りの時の笑顔だ。
値札を確認して 財布を確認する。
よし。
と 購入を決めた。
プレゼントなんて初だから
レジでテンパって 出す小銭の金額 間違えてた。
慌てて 店員さんに 贈り物の梱包を頼む。
表面はクリーム色の無地の箱  
対角線に緑のリボンで かわいく締める。
紙袋の重さに負けないように 少し頑張って店を出る。
紙袋の中 台に支えられて 
歩調と一緒に おしゃれ玉を運ぶ。


リボンが解かれ 箱が開いていて ガラスの丸がある。
緑の螺旋があり 上に向かって伸びている。
テーブルには グラスが一つ 置かれてる。
椅子の座席は不在で 部屋には人がいない。
電気も消えている。
カーテンが開いて 月に反射された陽光が照らす。
表面に写る歪んだ部屋は 鮮明で 寂しくない。
部屋の中で インテリアとして 在れるから
ガラスの丸は 主を待つ。


自由詩 ガラスの丸 Copyright 電灯虫 2011-05-19 00:59:59
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