ほんとうの真夜中の在り方は知らねえ
ホロウ・シカエルボク



些細に行き倒れ
網膜は硬直を始める
騒ぎ尽くしたはずの夜
なぜ眠りはここを離れる
狂った蛇が食らいつく
後先のない牙の痛み
ぬるい温度を漂いながら
呼気に紛れた贄を吐く
雨だれの染みを
拭い続けるような営み
されど孵らぬときを
もう知らない振りをして
いくつかの壊死した感覚が
また往生際を蘇らせる
クラブハウスサンドイッチの
レタスみたいにぶつ切りの意地
くすんだ硝子の向こうに見える
白色だけのネオンの跳躍、は
忘れた頃のどん詰まりで
鈍い笑いを漏らすのだ
浮遊するのはいつも、釈然としない怒りと
釈然としない哀しみのタペストリ
存在し得ない言語を
手に余るほども抱えたような
真夜中の物言わぬ争乱
すでに分裂症を抱えた
卵の中で目を開く雛鳥
音波のように眼球は震えていた
ほんとうに真っ白な空っぽな夜明けを
幾度となく俺は見てきたよ
執着だけを残したまま
気体になったヒトのような気分さ
音符のひとつもない
ピリオドだけの楽譜の終楽章さ
長く息を吸い込んだらなにもかもが終わっていたんだ
鼠がなにかを求めて天井を鳴らしている
そんな直線的な夢中を
かつて感じたことがあっただろうか?
ひかりのない時間は
どんなものを軸に進行しているのだろう
結局のところ
見えるもののことしかひとは判らないのかもしれないな
スピリットだって結局は
媒体の上で結論するんだ
俺は悲観しているんじゃないよ
俺は諦めているわけでもないよ
俺は途方もなく心細くなっているわけでもないよ
ただ真夜中をどんな風に泳ぐのか
まだ知らずにいるってだけなのさ
ほんとうの暗さじゃない夜は
カーテンを開けてもあっけらかんとしてるもの
思い出したようになにかが蠢いて
空っぽの上空で反響しつづけるもの
眠りのためにあるものを知りたい
だけどそれにノーと言うような手段ばかりを
俺は選んできてしまったわけなのさ
たったひとりだけで歩道を鳴らす
靴音こそが真実なのかもしれないんだって
いつか考えちまったからに
他ならないせいなのさ
誰も歩いていないときの
壁や床はよく喋りやがるね
少し温度が変わる度に
小姑みたいに敏感によく喋りやがるねぇ?
あんたはさ、誰彼が居ないと遊ぶことも出来ない子供のようなやつなんだから
これ以上言葉を漁るのはよしなよ
これ以上自分の話を
すべてみたいに語るのはやめておいた方がいいよ
誰の知ってる真夜中もきっと明るすぎるとしたものだから
すべての明かりが消えてもきっと
窓からなにかが部屋を照らしてるものなのだから
なにか、そう、隠れきった不文律みたいな
不思議な成り立ちの調整が行われなければ
誰もがきっと眠りを求めないものだから
誰もがきっと明日を求めないものだから
かすれた喉に水でも流し込んで
潤うのを待つ間に新しいいざこざを片付けるのさ
不具合が立て続けに起こる方が
そんな夜には退屈しないでいられるというものさ





自由詩 ほんとうの真夜中の在り方は知らねえ Copyright ホロウ・シカエルボク 2011-05-17 03:16:51
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