草野春心



1.詩人

  一人の詩人は
  自らの詩をオルゴールに閉まった
  そして時々、宝石が
  散りばめられた蓋を開ける
  身分証明が必要なときや
  金に困ったとき



  一人の詩人は
  自らの詩を裸のまま海に返した
  ノートの一頁として
  読みあげる声として返した
  夕暮れになると、彼は浜辺に
  戻ってきて水平線を眺める



  一人の詩人は
  もう詩など書かなかった



2.夜

  夜
  流木と
  潮の香があり
  渚は
  ひとつの肉体であり



  蘇生と
  死滅を繰り返す
  不完全な肉体であり



  そして我々は
  夜
  渚で
  少しずつ
  借りたものを
  返している



3.波よ

  缶コーヒー
  瞳
  ハンティングナイフ
  ひかる月
  存在



  音がして
  声になる
  なんのことはない
  世界とは
  傷だ



  波よ、
  おまえは誰だ。



  波よ、
  一切を食らい
  吐き出してきた
  お前は、
  誰だ。



4.ももいろのなぎさ

  あしたのあさ
  もしもぼくが
  めざめたなら
  このなぎさに
  ちらばってる



  すべて
  ももいろの
  はぐき
  がんきゅう
  だいたいこつ
  すべて
  ももいろの
  うぶげ
  くるぶし
  はっけっきゅう
  すべて
  きみを



  ひろいあつめ
  びんにつめて
  もってかえる
  すべてきみを
  もってかえる



  きみだけは
  このうみにさえ
  わたさない
  ぜったいに
  わたしたりしない



  あしたのあさ
  もしもぼくが
  めざめたなら





自由詩Copyright 草野春心 2011-05-04 20:07:34
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