林道の途中で
こしごえ




蜻蜓とんぼの眼鏡は言う
「得た、と思ったとたん、うしなっている」
であるから、はなから何ももっちゃいない
少年は、青年になっていた。誰もが年を取る
今は

眼鏡を直す指先でそっと静かに
借りているものを御返しする
雲になって降る時は
誰もがそ知らぬふりをする
桜はことしも咲いたかね、と

入道雲は ささやいた。
セロファンのうつむく気配に
素肌は白く眼にまぶしい
木陰のかげりに風も無く
ひんやりみつめている

貫かれた
自恃じじ
誰一人として嘲笑あざわらえない
嘲笑ったとしてもそれは
その者自身の無知を嘲笑ったのだ。
空はいつも泣いている
独りきりを微笑んで。
蜻蜓の翅は、それらを知っている

知りながら。視線は翅を透過する
それらは結局御互い様
どの道透けるのですから優しい
素直な笑顔でいますね。
花は咲く
咲かなければ、散ることもない
実ることもない
実るためにも 花は咲く
諦めることはなく。青い宙を
木洩れ日の影絵で
縁取ふちどるきらめき麗しく
今、今か
















自由詩 林道の途中で Copyright こしごえ 2011-05-01 06:06:11
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