虫がふふんと鳴いた
シホ.N


奴ももう
もうろくしはじめているので
僕のことを
認められやしないのだ
奴もそろそろ
ろうそくの残りの火も気になるので
僕の顔さえ
まともに見てやしないのだ

奴らと僕らとのあいだには
オイディプス王たちほどの
浪漫もなにもないのだから
僕らとしても
悩める顔付きをしてみせるのは
あまり本意でない
狂気への興味を示してみせるのは本意でない

奴らと僕らのあいだにはなにもなく
境界さえないのだから
僕は何も言わない
けれども
どんな世にしろ必ず
怒れる若者はつばを吐くし
イカレタ若者は猥言も吐く

奴らもひそかに
かつての自己をよぎらせながら
僕らの口のきき方や
僕のどもり具合などにも
つばを吐きたいはずなのだ
でも奴ももうもうろくしているので
吐けやしない
ペッと口をすぼめるのは行儀が悪くて
吐けやしない

奴ももう
もうろくしているので
僕らの大事な虫を見逃している
見過ごしている
今だって
どんな世にしろ魂の、
虫は、いる

僕はつばを吐くかわり
口笛ふいて
今日もひとり
馬鹿なバッカスの夢になる
僕の虫は安酒でもいい感じで酔えるのだ
ふふん
僕はジンの臭いの息で
奴の鼻の真っ先に
口笛ふいてみせるのだ

これが僕の勝鬨であり
または負け惜しみ



自由詩 虫がふふんと鳴いた Copyright シホ.N 2011-04-30 19:49:45
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