宙と姫
木立 悟
樹が樹である理由のひとつ
遠のけば近づく光のひとつ
空の切れ端
うなじになびき
夜と鈴しか通らぬ道に
いつのまにかできた水たまりには
ずっと雨しか映らない
雨ではないほど遠くまで
無言が無言に触れては光り
立ちつくすものの脚を消しては戻す
窓に原に吹く
うすむらさき
空が斜めになると
涸れ川は静か
石の下の鉱
水と言葉
冬が分ける日
向こう岸に
少しだけ早く来る夜の
四月は常に欠けている
かぎ裂きの影
求めた以上のものを失う
その羽の
その羽のおこす風を視る
剥がせばもどる
剥がせばもどる うらはらの
足の指の先
やがて自身を 踏みしめる闇
結末が結末となる前に
ある日ふいに終わった想いが
幾度もめぐり めぐりめぐりて
かたちをかたちに震わせてゆく
夜を夜に翳し見て
そら ひめ かみ はな
またたきはまぶしく
失くすたび 苦しく
道の終わりを
覚えているひと
ひとつひとつ
ひとつひらく色
歯車の陽はほどかれ
衣の陽は星へ
空は空を
ゆうるりと割る
午後に轟く午後の鉱たち
海へ 海へ
晴れも曇もない
そのままへ
冠の端に花が咲き
枯れては咲き 枯れては咲く
自らを討つ武器のように
ひとかけらの容赦も無く咲きほこる
海は近づき うしろになる
夜を静かに連れてゆく
誰もいない水たまりの道
またひとつ雨がすぎてゆく