海面からみあげるとこんもりとした森が公園である
ブランコと藤棚のフジ
それからベンチ
蛇行しながら遊歩道の鎌首をもたげる
ぼんやりした外灯がともる
雨ざらしの石段をのぼりきったところには
ふきさらしの東屋がある
スケッチできない風にふかれた
街の気配がクルマのかたちをしてのぼってくる
白線で区分されたスペースに小暗い表情でフロントガラスの顔が並ぶ
小枝や葉叢をふきぬけてくる風音は消音ブロックが奏でる
潮騒に似ている
さわがしい海(単数形である)のフシギ
さわがしい樹々(複数形になる)のフシギ
わたしを通りぬけられない腹いせに
わたしをどこかに攫ってゆこうとする
風
ゴーゴー
ザワザワ
と、やむことがない
単数形の海をわたって
複数形の樹々と街の辻々をふきぬけて
わたしの
わたしだけの
時間を奪いとって
どこへゆこうとするのだろう
まるで情け容赦のない冷酷な人格であるかのように
……と
それだけだ
泡みたいな想念だ
書き記さなければなにも残らないノートに
……わたしの
……わたしだけの