書き記さなければなにも残らないノートに
石川敬大





海面からみあげるとこんもりとした森が公園である
ブランコと藤棚のフジ
それからベンチ
蛇行しながら遊歩道の鎌首をもたげる
ぼんやりした外灯がともる
雨ざらしの石段をのぼりきったところには
ふきさらしの東屋がある


スケッチできない風にふかれた


街の気配がクルマのかたちをしてのぼってくる
白線で区分されたスペースに小暗い表情でフロントガラスの顔が並ぶ
小枝や葉叢をふきぬけてくる風音は消音ブロックが奏でる
潮騒に似ている


さわがしい海(単数形である)のフシギ
さわがしい樹々(複数形になる)のフシギ


わたしを通りぬけられない腹いせに
わたしをどこかに攫ってゆこうとする

ゴーゴー
ザワザワ
と、やむことがない
単数形の海をわたって
複数形の樹々と街の辻々をふきぬけて
わたしの
わたしだけの
時間を奪いとって
どこへゆこうとするのだろう
まるで情け容赦のない冷酷な人格であるかのように

……と
それだけだ
泡みたいな想念だ
書き記さなければなにも残らないノートに
……わたしの
……わたしだけの







自由詩 書き記さなければなにも残らないノートに Copyright 石川敬大 2011-04-28 21:29:01
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