9回裏 ツーアウト
北大路京介

夏の甲子園。
全国高等学校野球選手権大会 決勝戦。

北大路高校 対 羅生門学園。


エース三千院が好投しております。
9回裏。
羅生門学園の攻撃 二死ランナー無しで
バッターは3番ファースト・谷口。
1対0。その差は、わずか1点。
北大路高校、初優勝まであとアウトひとつ。
 
大きく振りかぶって、、、

初球、叩いた。 高いバウンドになった。
セカンドの正面。 おっと はじいた。はじいた。
間に合わない。投げられない。

ツーアウト一塁。
難しいバウンドでした。

さぁ、長打が出れば同点。
一発出れば、サヨナラの場面となりました。
北大路高校、初優勝まであとアウトひとつ。

打席には、今大会7ホーマーの4番カワトウが入ります。


あっ ピッチャーの交代でしょうか。
9回ツーアウト。
 
北大路高校のベンチから、黒いマントに包まれた何者かが出てまいりました。
いったい何者なのでしょうか。

いま アォッ! という奇声が聴こえました。
 
球場はどよめいております。
北大路高校の応援席には、なにやらギャング風の男たちがマシンガンのようなものを構えております。
 
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

オーッと 黒マントに向けてマシンガン乱射であります。
謎の黒マントが蜂の巣状態。

なにが起こっているのでありましょうか??
9回裏、ツーアウト一塁。

黒マントの中がウネウネ ウネウネと動いております。

なんということでしょう!
さきほど打ち抜かれたであろう穴という穴から光が漏れております。
32キロルクスほどでありましょうか、その明るさ。
ちなみに32キロルクスは、太陽光の日平均であります。
 
黒マントの中から現れたのは、白いスーツに白い帽子、白いネクタイ。
野球をする姿とは思えません。
ユニフォーム姿でないことはたしかであります。
あぁーっと 奇声とともに 守備についているナインが動き出しました。

一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。
宇宙飛行士が月面を歩くかのような動き。ムーンウォークであります。
北大路ナインによるムーンウォーク。

9回裏、ツーアウト一塁。
打席には、今大会ナンバーワンスラッガーの呼び声高い4番カワトウ。
1対0。
白いスーツの男は、何者なのでしょうか?
 
三千院がマウンドを降ります。
代わってマウンドに向かうのは、白いスーツの男。
この男が投げるのでしょうか。

どこからともなくマウンド上にカラスが集まってまいりました。
1羽、2羽、3羽、4羽…
十羽、二十羽、、 もう数えていられません。
カラスの多さに スーツの白も隠れてしまいました。
 
カラスが、1羽、2羽、3羽、4羽と空へ戻っていきます。
こんどは、マウンド上から 人の気配が消えました。
カラスが飛び去ったあとには、何も残っておりません。 
どうしたことでしょう。 イリュージョン。
 
狐につままれたかのような夏の甲子園。決勝戦。
北大路高校 対 羅生門学園。
1対0。
ツーアウト、一塁。
北大路高校、深紅の優勝旗まで、あとアウトひとつ。


 『北大路高校のピッチャーの交替をお知らせします。
  ピッチャー三千院に代わりまして、朝風。背番号11。』


朝風に交代のようですね。
その朝風は、どこにいるのでしょうか。
おやっ マウンド上に またカラスが集まりだしました。
マウンド上に円柱を作るかのように カラスの集団が旋回しております。
 
円柱が円錐になって、カラスが飛び立っていきます。
おぉっと マウンド上に 選手が現れました。
朝風であります。
1年生ピッチャー。
この甲子園が初登板となります。
 
甲子園は、いよいよクライマックスを迎えます。
このタイミングで、1年生ピッチャーを登板させました、木屋町監督。

さぁ、ツーアウト。
ランナーは、一塁。
なにが起こるかわかりません。
カワトウに対して、どのようなボールを投げるのでしょうか マウンド上の朝風。

またまた数多のカラスがマウンド上へ集まります。
セットポジションから朝倉、第一球を投げた。
ボールとともにカラス達もキャッチャーミットへと突っ込む。

ストライク!


カワトウ、見送りました。

1点差。1対0。
9回裏、バッターカワトウ。
ツーアウト、ランナー一塁。

投球二球目。

打った!

左中間 伸びる伸びる

カラスもろともスタンドへ持っていったー サヨナラホームラン



自由詩 9回裏 ツーアウト Copyright 北大路京介 2011-04-27 18:59:58
notebook Home 戻る