年寄りの住む村
見崎 光

雪がこんこんと降り続いた次の日は
まだ夜が明け切らない早朝から
トラクターのエンジン音が響く
凍てついた大気では
空に昇る煙も、どこか力無い
そんな極寒の中で
現役を引退した男たちが
除雪作業に取り掛かった
昨日の大雪は止んでいて
あちらこちらで勇ましいエンジン音が
庭先を整えている

少しずつ辺りが色を持ち
山の向こうから陽が射し始めた頃には
雪がきれいに片付けられていて
軒先のつららだけが昨夜の痕跡を滴らせていた
仕事へ向かう車を送り出す家々の庭で
男たちとトラクターは笑みを浮かべながら
満足げに極上の一服をする
朝食と濃いめのお茶で体力を補充した男たち
少々の休みも後回しに
相棒に乗り込んで家を後にする
大半が年寄りのこの村を整えるため
朝陽を背に走り続けるのだ

この村には年寄りしかいない
春から秋にかけ知恵を借り
北国特有の長い冬に恩を返し暮らす男たちは
年寄りの手に余るほどの雪をトラクターに乗せて
地から川へ運び自然へ還し
春の息吹が1軒も遅れることなくやってくるように
先代より受け継がれし知恵を施して漸く仕事を終えた
背に注がれていた陽の温もりはすでに頭上高く在る
助け合いで活かされている素朴で温かい村に
留まる若者は少ないけれど
親父の背中から息子の背中へ引き継がれる様を
今年も朝陽は見つけたようだ

雪がこんこんと降り続いた次の日は
まだ夜が明け切らない早朝から
トラクターのエンジン音がまた
大地に心に響き渡るだろう
“あと何年”指折り数えながら



自由詩 年寄りの住む村 Copyright 見崎 光 2011-04-26 15:34:42
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