スプーン
nonya


待ちぼうけのカフェで
冷めかけた紅茶をもてあそぶ
スプーンのあてどなさ

間延びしたリビングで
戴き物のゼリーをふるわせる
スプーンの退屈

行きつけのファミレスで
カツとカレーとライスをかきまぜる
スプーンの男っぷり

湯気に包まれたキッチンで
幸せの塩梅を丁寧にはかる
スプーンの健気

上手く使い分ければ
柔らかな曲線を描きながら
日常を掻い潜ることができるのに
僕は

ティースプーンで
記憶の湖底に沈んだはずの
錆びついた恋を掬い上げてしまう

デザートスプーンで
笑顔の裏側に潜んでいる
優しい嘘をほじくり返してしまう

カレースプーンで
沈殿しようとしている悲しみを
放っておけずに掻き回してしまう

計量スプーンで
計らなくていい可愛い毒まで
ご丁寧に計ろうとしてしまう

不器用などと自分から
言ってはいけない

大人気ないと大人しく
自覚したほうがいい

掬いたがりを装った
救いようのない僕は
何も掬うことができない
ただの救われたがり




自由詩 スプーン Copyright nonya 2011-04-23 20:32:50
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