村上 和

私がまだ小学生の頃
同じクラスに「わたしのパパはパイロットなのよ」と言っていた子がいた
後日違う子から「あの子の家は古いアパートなんだから絶対に嘘よ」と聞いた

私はその子に嫌いだと言った

その日の空は
ただ静かに晴れていて
学校のある街には
ただ日常が流れていた



沈んでいくように
ぶくぶくぶく

水面のような空を見上げる

今日また嘘をついた

大人になった私は
見栄を張って
見栄を張ってはその度に
ゆっくりと沈んでいく

君は
哀しそうに笑っていた
私もきっと
悲しそうに笑っていた



10年ぶりの場所
懐かしい帰り道を歩いたから
空がただ静かに晴れていたから
街がまだ日常を流していたから

水中から見上げた水面みたいに
空の景色は滲んで揺れて
まるで泣いているようだった

ぶくぶくぶく

あの日の空をあの子のパパの操縦する飛行機が
音もなく飛んでいた


自由詩Copyright 村上 和 2011-04-22 17:50:59
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