あどけない話
たま

階段の灯りをLED電球に交換した
ちょっと薄暗いけど

四万時間の寿命だという
居間から二階の寝室まで
三十秒あれば昇りきるとして
電卓をたたいてみた
五十年は切れることはなかった
ぼくはとっくに死んでいるというのに

もし、智惠子が生きていたら
東京には夜が無いと、いうだろうか
阿多多羅山の山の麓のあの故郷の灯りが
智惠子のほんとうの夜だと、いうだろうか
光太郎はまた
あどけない夜の話だと、いうだろうか

震災にみまわれて東京に夜が帰ってきたという
智惠子と光太郎が生きたころの空も
帰ってくればいいのにね

それにしても
五十年も切れない電球と生きるなんて
なんだかいやだな
まだ、光太郎が生きていたころ
祖母の白髪を抜いてくっつけた
あのオレンジ色の裸電球が
ぼくのほんとうの灯りなんだとおもった

あどけない夜の話である、とはいえない
ちょっと切ない話である











自由詩 あどけない話 Copyright たま 2011-04-18 17:11:37
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