あどけない話
たま
階段の灯りをLED電球に交換した
ちょっと薄暗いけど
四万時間の寿命だという
居間から二階の寝室まで
三十秒あれば昇りきるとして
電卓をたたいてみた
五十年は切れることはなかった
ぼくはとっくに死んでいるというのに
もし、智惠子が生きていたら
東京には夜が無いと、いうだろうか
阿多多羅山の山の麓のあの故郷の灯りが
智惠子のほんとうの夜だと、いうだろうか
光太郎はまた
あどけない夜の話だと、いうだろうか
震災にみまわれて東京に夜が帰ってきたという
智惠子と光太郎が生きたころの空も
帰ってくればいいのにね
それにしても
五十年も切れない電球と生きるなんて
なんだかいやだな
まだ、光太郎が生きていたころ
祖母の白髪を抜いてくっつけた
あのオレンジ色の裸電球が
ぼくのほんとうの灯りなんだとおもった
あどけない夜の話である、とはいえない
ちょっと切ない話である