雲の形
アンテ


                  「メリーゴーラウンド」 14

  雲の形

きりーつ れーい
間延びした声で
教室のスイッチが切りかわる
先生が告げた教科書のページを開いてみて
びっくりした
わたしの字でびっしりと書き込みがしてあって
それはよく見ると
問題を解くのに必要らしい公式だとか
参考書かなにかから引っぱってきた類似問題だった
かつかつ かつ
黒板にチョークがぶつかりながら
数学の公式が答えを導き出す
クラスメートの授業の過ごし方はさまざまで
鉛筆を囓っていたり
要領よくひそひそ話をしている
授業の内容も教科書の公式も
ちんぷんかんぷんで
諦めて窓のそとに目をやると
体育の授業でトラックを走っている人たちや
運動場を囲む木々が
窓ぎわの席からよく見えた
まばたきをするのももったいないくらい
雲の形がとてもきれいだ

退院して一週間
自宅療養と称して
病院と家の往復いがいは外出禁止だったので
わたしが住んでいたらしい部屋を
すみずみまで探索できた
断片的だったようくんの記憶を
写真や日記で余すところなく補った今では
なんでも知っている気分だ
あんがい
記憶なんて
その程度のものなのかもしれない
って思ったら
気が楽になった
あんがい
わたしは大丈夫かもしれない

雲の形がきれいで
ぼんやり見ていると
授業はあっというまに終わった
午前中は
休憩時間のたびクラスメートに囲まれたけれど
みんなの好奇心はすっかり満たされたみたいだ
ホームルームが済んで
荷物をまとめて
近くにいた子に図書館のありかをきくと
前まで連れていってくれた
あらぁ 良くなったのね
わたしをめざとく見つけて駆け寄ってきた先生を
名前検索
えーと
わたしと一字ちがい
突然そんな考えがうかんだ

あんがい
楽しいかもしれない
そう
楽しいと感じている自分が
頼もしい

わたしの部屋の本棚
かなり読みこまれた本が一冊あった
不思議なイラスト付きの童話で
新品が別にとってあるほどの念の入れようだ
手に取ると
勝手に真ん中あたりが開いて
そのまるまる二ページ分を
空で朗読することができた
わたし
まだしばらくは生きていられるんだ
ようくんに話したら
笑われるかもしれないけれど
わたし
まだしばらくは
生きていられるんだ
それに
笑ってもらえることがうれしい

なぁに またその本読んでるの?
カバンから本を出すと
先生が呆れたように笑った
ねえ とっておきの本を
生まれて初めて読むんだから
邪魔しないでね
ヒロコ先生
おもわずくすくす笑ってしまった
おかしな子ねえ
頭をこづかれる

窓のそと
形は変わりつづけているけれど
雲は雲だ

永遠を信じたくなるような
まっさらな空だ


                 連詩「メリーゴーラウンド」 14






自由詩 雲の形 Copyright アンテ 2004-11-07 11:25:12
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メリーゴーラウンド