天国と地獄
salco

音楽の時間
 
誰もが知る有名なこの曲は
(誰も知らない作曲者の名は
   オッフェンバッハだが)
運動会の満艦飾の下で行われる徒競争や
赤いビロード張りのコンサートホールで
聞かれるべきものではない
このやかましく滑稽な旋律は
人生の中で
鼓膜の内側でこそ
がなり立て続けているのに他ならない
まるでバスター・キートンの映画みたい
マルクス兄弟よりひたむきで悲惨
チャプリンの洗練も高度なプロットも無く

これほど悲愴な音楽があろうか
棺の中で葬送行進曲を聴くまでは
超芸術的不協和音にすら至らない、
この騒々しい悲哀
強迫的奔走と安っぽい喜劇的躍動は
悲惨と混沌の人生そのもの
ガチョウの全力疾走。
反精神主義的人生の真髄を
これほど見事に体現した
苛立たしい創造物を私は知らない
―― ドナルド・ダック以外は


自由詩 天国と地獄 Copyright salco 2011-04-12 22:08:57
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