出郷
モリー

碧か、群青か、言いようのない空を背にして
影になった桜の木が現れた
白いはずの満開の花は淡い紫色に霞む
手前の細いガードレールも同様に染まっている

運転手が鼻声のビートルズを披露する
ああ、春だわ
景色も車内も、出発点にはちょうど良い

メロドラマを地で行くような彼
涙するタイミングはここだと言わんばかりに
減速してみせビブラートをかける
遠ざかる並木、右手があつかった


お父さん、娘は遠くへ行きますが
きっと元気に頑張ります。


故郷を見送りながら立志したのも束の間
縦揺れと共にトンネルに突入する


自由詩 出郷 Copyright モリー 2011-04-11 00:06:18
notebook Home 戻る