水夜
村上 和

三日月に座って唄うあの子は誰
透明な声を響かせてレースのカーテンが揺れている


水のような夜の音が
静かにささやいた声は夢
世界の半分を包む蒼く澄んだ暗闇を
君の眠りの中へ
そっと解き放っているの

まるい小さな窓に
ほのかに赤く灯したひかりの中
絵本のページをめくるように
君はゆっくりと彩られ
神様がくれた翼で星の夜空を泳ぐ

幾つもの魔法の言葉たち
ぬいぐるみばかりの宝石箱
ノートに記された可愛い秘密

私の指をきゅっと握って
かよわく微笑む小さな温もりは
まぎれもなく生命で
ひとつ水紋の輪を作り
うたかたを抱いておちてゆく

その柔らかな寝息を見守りながら
守りたいとまた強く願っては
窓の中に灯したほのかなあかりを消すの

(おやすみなさい。)
(またあした。)

声を潜めるように眼を閉じると
私の裸体は君の夜に浮遊する
口からぽつぽつと気泡を吐き出して
水面に浮かんで揺らめく月に
白く淡く照らされる


三日月に座って唄うのは幼い私
透明な声を響かせてレースのカーテンが揺れている


自由詩 水夜 Copyright 村上 和 2011-04-02 21:13:27
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