蝶の鏡をもつひと
こしごえ




うららかな日和の空を
しっとりと羽化した蝶は飛び去ってゆく
音も無く今の所

無音を聴いて浮彫にする
みずからの姿を
飛び去ったそよ風に映す
風光る風の色
沈黙の兆しは遠雷を呼びつづける

その日、ひきよせられる雨後の日差し
だれもいない草原で鏡を覗くと
ぬれた千草がつやつやと風にかわいてゆく
みんな去ってしまったあとに
のこる物事は底が見えないくらい深呼吸する
独りきりを選んだのだから遠いさ
大地も大空もほがらかに

わたしの鏡は透きとおっている
御存知でしょうね
いつだって 世界の裏と表は
ひっくりかえる
そうです。ふりかえることはあっても
ひきかえすことは出来ない、進むのみ

いつでも記憶は暗く透けた影も映す
終えた時はどうか
笑顔でいてくれるだろうか、とひやり閃く
明日もあるとは限らない
それでも!

映した像が独りあるきつつ
手をつなぐ
うしなわれた足跡は
永遠にとどまる
一輪の光を吸う
はき出されたため息は、
夕空へ雲をひとつ浮かべ
赤く染める。さなぎのからを









自由詩 蝶の鏡をもつひと Copyright こしごえ 2011-04-01 08:51:49
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