私たちの世界
百瀬朝子

誰も批判しない箱の中
ぬくぬくしていて気持ちがいいよ
でもね、世界は
箱の外でまわっているの

  天の川は決壊しました
  あふれた星屑は
  流れて地上へ旅に出ます
  口を開ける子どもたち
  ちいさな内臓へと向かいます
  帰れない旅に出ます

月が満ちた
気づくのはひとりの夜

ワインのコルクが抜けない
後頭部の血管が千切れそう
右眼には違和感
セーターの赤い繊維が犯す
右手の人差し指で
眼球を冒す
ぐりぐりするけれど
違和感はぬぐえない

  一人暮らしは
  長すぎる家出のようだ
  ふらふらと
  渡り歩くのと
  何が違う

ひろいひろい箱の中
生かされながら
生きている気になって
自立という自負が
人格の邪魔をする

腐ってゆく
腐ってゆく
愛したくて
腐ってゆく
きっと
それは正しい腐敗
愛に滅びる
残ったもの
生かされた証明
胸を痛める
私たちは
灯火ともしびを絶やさない

  さよならを告げる間もなく
  まためぐりあうために

私たちは
絶やさない


自由詩 私たちの世界 Copyright 百瀬朝子 2011-03-31 21:19:36
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