追憶の毛先
湾鶴

銀すじに沿って 
豆腐の上を歩くように
ゆっくりと足を進めた
バスに乗ってもよかったけれど
ひさしぶりに
以前のアダナに帰る

徐々に慣らしていこう
イオウ温泉につかるときのように
つま先から
そっと

乾いた海鼠壁は
山間の里に
燦燦とまどろんでゆく
椎茸だしのような匂いに
あたりを見回すと
なだらかな土の上に
一人、老木がゆれていた
「おじさん」
とかつて呼んでいたこの柿の木も
かわらない佇まい
欠けたオハナも
窪んだオメメも
今秋の
たわわにゆれる
渋柿の実
またひとつ
煤けたかけらを思い出せた



自由詩 追憶の毛先 Copyright 湾鶴 2003-10-15 01:05:50
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