追憶の毛先
湾鶴
銀すじに沿って
豆腐の上を歩くように
ゆっくりと足を進めた
バスに乗ってもよかったけれど
ひさしぶりに
以前のアダナに帰る
徐々に慣らしていこう
イオウ温泉につかるときのように
つま先から
そっと
乾いた海鼠壁は
山間の里に
燦燦とまどろんでゆく
椎茸だしのような匂いに
あたりを見回すと
なだらかな土の上に
一人、老木がゆれていた
「おじさん」
とかつて呼んでいたこの柿の木も
かわらない佇まい
欠けたオハナも
窪んだオメメも
今秋の
たわわにゆれる
渋柿の実
またひとつ
煤けたかけらを思い出せた