眠れぬ森のロミオ / ****'01
小野 一縷

ロメオ


プロチアデンが呼んでいる
アモキサンが招いている
コンソールの高台
かびた毛布の洞窟
萎びた雑誌の湿地
乱雑に走るシールドは葦 黄ばんだ紙屑の落葉に絡んでいる
色とりどりのダイオードは 忘れかけた遠い街の灯
モニターの沈まぬ夕陽に 老いたリッケンバッカーはたそがれて
少し残ったコカ・コーラは独り言
レキソタンは鼠に齧られて
ドグマチールは虫の手足と戯れて
いろんな名前の小人達が見上げてる セブン・スターの灰の雪
6年かけて築き上げた 深い森のステイジに 降り積もる


ロメオ
淡水巻貝のロメオ
割れた唇 窪んだ瞳 荒んだ頬
こんなに永く うずくまっても
髭が薄いきみは やっぱり色男
ジュリエッタが また 待っているよ
きみの黒く長かった後ろ髪を想ってさ
逞しいかった二の腕を想ってさ
眼を閉じて耳を澄まして きみの思い出を慕って
舞台の外で いじらしく


(ジュリエッタ 
 ぼくじゃだめかい?
 こんなにも毎夜 君に切ない息を切らしているのに
 ロメオは君を忘れたってさ
 彼が求めているのは ぼくが届けるワイドスロー
 君じゃない)


さあ ロメオ
ベタナミンが待っているよ
目醒めたら また一曲 聴かせてよ
エチゾランにお礼を言って 歌ってよ
きみの体中の震えが漏らす あのファルセットで
いつもどおり 
「ぼくはまだまし」って思わせて


ねえ ロメオ
時間だよ 
起きてよ ロメオ
お願いだ


ロメオ 
陽の光を浴びれぬ きみは
昼なき森の猛禽類
鬱蒼と茂る不安を狩るのに疲れたら
もっと深く眠ろうか
甘美なる魔王の草汁 酒に含んで 
くちうつし





使い古されたアドレナリンなんて 苦味の消えた紙屑以下だ
重要なのはセロトニンとドーパミン
それとアルカロイドの二、三種類
ヴィタミンRにミントタブを混ぜるのは有効だけれど
優しさ半分のアスピリンなんて この頭にはプラセボにもなりやしない
あのシロップを 舐めてから 女の甘さはとっくに捨てた
この真紫の唇を 綺麗と言ってくれる きみがいる
きみの足音が 霞んだ木洩れ陽を踏みに来る
凍える唇を潤す唾液から甘い味が消えた時
歯と骨の隙間を打ち鳴らして きみの為に歌うから
あの娘の夢を見られるように
この森もっと奥深く 埋もれさせてくれ
きみの林檎味の唇で









           題名、なかのゆみ様より


自由詩 眠れぬ森のロミオ / ****'01 Copyright 小野 一縷 2011-03-28 20:06:52
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