卒業式
西日 茜

いつものように 教室までの階段を
タンタンと駆けあがってくる君の足音を聴いたとき
先に来て 私物を整理していた私の心臓が急に高鳴った
ポッと頬が染まったろうと客観的に感じた
客観的にというのは
つまり その後の喪失感を考えないようにすることで
聴き慣れた音や作業がずっと続くと錯覚し
体内の血液や体温やホルモンに変化がないこと
ついに来てしまった最後の日は
そんな感じで恒常性を帯びて始まり
それから何時間かはいつもの冗談で笑い合って過ごした
作業ははかどった
教室のちゃちなプレーヤーにipodを無理やりつなぎ
DMCとかRIHANNAとかのお気に入りの
R&Bもろもろをシャッフルして聴きながらだった
いつもは「聞く」のテストをやるための
まったくちゃちな埃をかぶったプレーヤーを
大音響にしてテンション上げている君
それから めいめいの車に私物を運び
段ボールで埋まった車を見て
「溜まったもんだね この蓋開きたくないよね」
って二人でしばらくながめていた
校庭では少年サッカーチームが練習をしていた
そのあと PCの個人データを消したり集金をまとめたり
回ってきた次学年用のCDRをメモリにDLしたり
いろいろやることがあった すごく疲れた
「ドーナツ食べようよ」
3時にお茶して 体育の話をした
「合同でクラス対抗すると熱くなってヤジ飛ばしたね」
二人の性格が似ていて熱くなってしまうんだ
実際 一昨日の卒業式のBURBERRY BLACK LABELは
彼の体型では似合いすぎていたから
あれはある程度筋肉質の方がいいのかもと思った
ここはアメリカ人を父に持つ軍人の家庭が住む地域があって
卒業式に集まる父母は映画のシーンのように見えたが
彼は引けをとらないで映って 年下の君はいつも眩しかった
夜までかかった みんな帰っていた
二人は帰れなかった 寄りそっていた
****ハグシテ******キスシテ*****キシンデ
*********スキ********ドウシテモ
コウナッテシマウ******ドウシテ?
コノカンケイ**********ヤメナクチャイケナイ
ハナレタクナイ*****イツモイッショガイイ*****モウアエナイ?
デアッチャイケナカッタ?
一期一会 これが最後だと感じた
もう二度と会わないでいようと思った
わたしには傷つく人がいる さようなら
ありがとう 君が好き 大好き
楽しかった思い出を胸に
わたしがここを卒業する日だった


自由詩 卒業式 Copyright 西日 茜 2011-03-28 10:14:25
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