ぶっとび市
オイタル

「ぶっとび市」というのがあって
白地に赤の幟旗が何本も
雪の壁に並んでいる
二〇一一年二月十一日
町は風が吹いて
人は四方にかしいで
青空が小さな冬の森を翳らせている
何がいやと言って 望まぬまま
今にも眠ってしまいそうな自分ほど
いやなものはない
歩道の少年は
後ろ髪を両手でつかんで
独りぼっちだ

雪のこもる部屋から
もう一つの部屋へ
黒光りする細い廊下が続いている
廊下の半ばにせまい押入れが口をあけて
半分になった醤油のびんや
漬物の桶が塩くさく並ぶ暗がり
足踏み外す銀河の上に
浮かぶは少年の
独りぼっちの瞼だ

「ぶっとび市」やら「かっとび市」
「すっとび市」から「ふっとび市」
立ち並ぶそれらは少年を揺するが
塩くさい銀河の流れに閉じこもる少年の
白々と雪のこもる部屋の中
眠りだけがきらめく


自由詩 ぶっとび市 Copyright オイタル 2011-03-26 14:02:29
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