雪解
木屋 亞万

久しぶりの君は髪が白かった
最初は帽子かカチューシャかと
一般的な白髪とは違う
老化ではない白髪

「どうしたの?」と聞いたら
「触ってみる?」と言う
優しく触れたはずなのに
パラパラと白い鱗が落ちていく

「あ、ごめんなさい」
慌てて謝ったけれど
君は何も言わず目を閉じている
手に残る鱗は柔らかく脆い

「これね、花なの、ユキヤナギ」
そう言って首をこちらに向けた
それだけで頭からまた
いくつかの花びらが

 春だから、サヨナラなのよ
 雪の女はね
 最後に頭に花を咲かせて
 その花がすべて散ったら
 静かに眠りにつくの

目を閉じて、また開いて
開かれた目の白いところは
驚くほどに真っ白で眩しい

眉間にシワが寄って細い眉が歪むと
目では涙が表面張力しながら踏ん張っていた
鼻の脇をヒリヒリする痺れが抜けて
君の涙が私にも移ってしまいそうになった

「また会えるかな」
「今までのようには行かないけれど、きっと」
その言葉を最後にして
君と二人
まだつめたい風に吹かれて
髪の花が散ってしまうのを
静かに待っていた

私はこれからどこへ帰れば良いのだろう

呆然と立ち尽くしていたら
上半身から
ぽわんぽわんと
木蓮の花が咲いて
雪の男はこうして散るのだと知った


自由詩 雪解 Copyright 木屋 亞万 2011-03-26 01:18:20
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