いつも通りと祈り
木屋 亞万


誰かが困っている時でも
音楽家は歌を歌うしかない
芸術家は絵を描くしかない
報道陣は報道するしかない
消防士は火を消すしかない
医者は医療行為をするしかない
科学者は頭で考えるしかない
会社員は業務をこなすしかない
学生は勉強するしかない
主婦は家事をするしかない

すべてを救える人などいない
どの役割も完璧でない
それは悪いことではない
自分の能力以上のことを
人はそうそうできやしない

困っている人に対して
働きかけることができる人ばかりではない
たくさんの困っている人のために
私はただ祈るしかない

でも、だから、
いつも通りの日常がある人たちは
自分が普段していることを
淡々とこなしていくしかない

休むときはいつも通り休み、眠るときは眠る
晴れれば洗濯をし、腹が空けば食事を取る
面白いことがあれば笑えばいい
眠けりゃあくびをしてもいいし
好きな音楽を口ずさんだって構わない

地震で揺れるのは
大地だけではない、海だけではない
人の心も揺れるのだ
いま日本中の心が揺れている

がんばろう日本
いつかのときのように
声を掛け合って、手を取り合って
それは比喩ではなく
現実の行動として

自らの心も動揺している状況で
困っている人たちを救い出そうと
情報を蜘蛛の糸のように
垂らした人がたくさんいる

頼りない糸は
意図せぬところでからまり
多くの人を惑わしもしたし
決して温厚な糸ばかりではなかったけれど
糸は今も途切れずに垂らされ続けている
日本中に張り巡らされた糸は
大きな祈りでもって、その絆を深めている

がんばろう日本
いつも通りの日々が
全ての人に戻るように

誰かが困っている時に
音楽家は楽曲で、芸術家は絵画で
報道陣は報道で、消防士は消火で
医者は医療で、科学者は頭脳で
会社員は会社で、学生は学校で、主婦は家庭で
それぞれにできる範囲で祈りを捧ぐ

へっぽこ詩人の私などは
祈りを言葉に換えながら
いつものように詠うしかない


自由詩 いつも通りと祈り Copyright 木屋 亞万 2011-03-14 00:30:24
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