【批評祭参加作品】 現代ホラー映画50選(5)
古月

(4)のつづき


41.『ホステル』
製作総指揮:クエンティン・タランティーノ! 協力:ピーター・ジャクソン!
『イングロリアス・バスターズ』での俳優としての活動も記憶に新しいイーライ・ロス監督による「絶対にスロバキアにだけは行かない!行ってはいけない!」という映画。
とにかく忌まわしい映画という印象が強かったが、『ホステル2』が出たことによって一気に憑き物が落ちてしまった感があるのは残念。
公開当時は「どんな映画か」の部分があまり分からなくて、予備知識なしで観て心底恐怖したのを覚えている。そうした配慮をここでは踏まえつつ、見どころや注意点を簡単に語ってみたい。
「スロバキアのとあるホステルで、地上最高の快楽が味わえるらしい」との情報を入手した主人公たち(ボンクラ男三人組)は、喜び勇んで出かけていく。ド田舎の美しくも枯れた町並みの中にあるそのホステルは、行ってみると実際マジでエロスの楽園だった。彼らは旅先での後腐れのない快楽を楽しもうとするが、そこに待っていたのは想像を絶する恐怖で……というのが物語の導入。
この「想像を絶する恐怖」というのがいったい何なのか?というのがこの映画のポイントなわけだが、できれば何も情報を仕入れずに見てほしい。主人公と一緒に「えっ、ちょ、なにこれ……(泣)」みたいなのを体験できるのが、いちばん幸せな観客である。
ちなみに日本人向けのボーナス(?)カットが二つあって、ひとつは映画監督の三池崇史が特別出演しているということ。もうひとつは、どう見ても日本人に見えない日本人が日本語で苦しむのを見て微妙な気持ちになれるということ。ちなみにその日本人のメールもかなり微妙で笑える。
相当グロいのでホラーに耐性のない人は覚悟決めてから見てもらいたいが、後味は悪くない映画なので「なんでもいいからとにかくホラー映画の傑作が見てみたい」という人は、迷わずこれ行ってみよう。そら三池も有り金ぜんぶ使うわ!ていうね。メイキングもかなり面白いので必見。
あ、続編の『ホステル2』は、あんまり面白くないので注意。とりあえず恐くないし、あれは完全にコメディだな。


42.『マーターズ』
超意味不明&超精神的ダメージ&超グロということで一時期ホラーファンの間に激震を起こしたパスカル・ロジェ監督による超問題作。
これストーリーや見どころを書いてしまうとマジでいろいろ台無しなので、ここではなにも書きません。少女二人の美しい心の交流を描いた物語、とだけ言っておきます。
『ハイテンション』『屋敷女』『マーターズ』の三作を見れば、フランスがどれだけ危険な国かがご理解いただけると思う。などと書きたいところだが、さにあらず。監督は意外にもみな理性的かつ紳士的だから困る。
もっかい言うけど、マジで超意味不明&超精神的ダメージ&超グロなので、耐性のない人は軽い気持ちで見ないように。
この映画を見た後にどうしても鬱状態から立ち直れそうになかったら、メイキングで監督や主演女優のインタビューを見ましょう。それでだいぶ回復できると思うので。(ただしレンタル版にもメイキングが入ってるかは知らないので注意)
なお、監督のデビュー作『MOTHER』もDVD化されたが、こちらは特に見所のない凡作なので注意。製作:クリストフ・ガンズ、撮影:パブロ・ロッソと恐ろしいメンツが揃ってるのになあ。


43.『マーダー・ライド・ショー』
ミュージシャンのロブ・ゾンビが監督を務めたホラー映画愛に溢れた一作。
だが、愛はともかく面白さは微妙で、個人的な感想としては本作『マーダー・ライド・ショー』よりも、続編の『デビルズ・リジェクト』(後述)を見てほしい。ていうかホラー苦手な人も、『デビルズ・リジェクト』を観るためだけに、予習として『マーダー・ライド・ショー』を観てほしい。それだけの価値は十分にある。
お話はといえばまたしてもアメリカの田舎で若者の車が故障し、殺人鬼一家の餌食になるというもの。だが、この映画は純粋なスリラーというよりは、それらのパロディかオマージュに近いのではないだろうか。恐い映画というよりは、奇妙なキャラクターが作り出す奇妙な世界観にあてられて酔いそうになるというか、非常に居心地の悪い思いをさせられるというか、とにかく正気を削られる映画、という感じ。なんだかあまり褒めてないけど気のせい! 絶対に気のせい!


44.『デビルズ・リジェクト』
映画秘宝の年間ベスト10に二年連続ランクインしたという逸話(笑)を持つ、その筋ではアホほど評価の高い映画。
前作『マーダー・ライド・ショー』のキャラクター、ファイアフライ一家がついに逮捕される!?という場面から物語は始まる。
一家に家族を殺されたワイデル保安官率いる警官隊が一家の家を急襲するが、惜しくもオーティスとベイビーを取り逃がしてしまう。そして、ここからワイデル保安官とファイアフライ一家の残党による、壮絶な追跡劇がロードムービー調に展開されるというわけ。
家族を殺された保安官の復讐というプロットは『悪魔のいけにえ2』にも通じるもので、いつ保安官がチェーンソーで大量の木材を切り始めるか気が気ではなかったが、あいにくそういったシーンはなかった(残念!)。
前作はイマイチ乗れなかったが、今回は凄かった。善良な市民(すなわち観客)が悪人に抱く生理的嫌悪感みたいなものを絶妙に引き出していて、観客の心には「保安官がんばれ! 気○い一家を殺せ!」という気持ちが思わず芽生えてくる……はずなのに。なぜか! なぜか観客は一家と旅を続けるうちに、彼らに深く感情移入してしまう。そしてあのラストシーン。思わず涙が……! という感動大作。いやあ、マジで驚いたね。ホラーで殺人鬼が死んで胸が熱くなるなんて。
とにかく「死ぬほど濃い」映画体験を求めている人にはうってつけの一本。


45.『ミスト』
スティーブン・キング原作・フランク・ダラボン監督ということで、『ショーシャンクの空に』や『グリーン・マイル』の感動を期待して映画館に足を運んだ一般の観客を絶望のどん底に叩き込んだ超おもしろ映画。全国でわりと大規模に公開しやがったのでこっちが心配した。
お話は非常にシンプルで、街がとつぜん謎の霧に包まれ、その中から異形の怪物が……というもの。だが「なーんだモンスターパニックホラーか」と思ってはいけない。たしかにモンスターとの戦いも重要な要素なのだが、この映画でマジで怖いのは、やっぱり人間。怪物に追い詰められて生か死か!という極限状況で、人間の隠された本性が開花する後半はマジで必見。過度のグロシーンはないので、精神的ダメージさえ覚悟できれば初心者にも超オススメ。というかね、あんまり中身について話せないので、何も聞かずにホント、一度騙されたと思って観てほしい名作。
ちなみに原作と結末が違っており、ダラボンがキングにこの結末を提案したところ、キングは「執筆中にそれを思いついていればそっちにしていたのに」と悔やんだという逸話がある。


46.『MAY メイ』
孤独な少女メイの初恋と不器用な恋心の顛末をせつなく描いたラブ・ロマンス。嘘みたいだけど本当。ただちょっとゴアシーン満載なだけ。
幼い頃から斜視のせいでコンプレックスを抱いてきたメイ。彼女の友達はただ一人、ママからもらったお人形のスージーだけ。
そんな彼女に初恋が訪れる。相手はきれいな手をしたアダム。彼に何とか声をかけたいけど、かけられない。彼に振り向いてほしい。内気な自分を奮い立たせて恋を実らせようとするメイの姿は、そのいじらしさゆえに見ていられない。なにこの恋愛映画。
だが、そこはやっぱりホラー映画なので、30分ほど経つと「あれっ?」と思う場面が出てくる。このメイという少女、ちょっとおかしいところがあって、自分の指をメスで切って恍惚としたり、勤めている動物病院で治療した犬が内臓を盛大に撒き散らした話を嬉しそうにしたりする。最初は「少しおかしいくらいが好きだ」と言っていたアダムも、キスでくちびるを噛み切られてドン引き。しだいにメイと距離を置くようになる。せっかく手に入れた恋人を失い、また孤独に戻ってしまったメイは、あることを思いつく。友達がいないなら作ればいい……。
そこからはだんだんホラー映画らしい展開になって、メイは自分が大好きな人たちの「大好きな部分」を切り取って縫い合わせていく。やがてメイの精神は均衡を失い始め、最後には……というのが物語の山場なのだが、はっきり言ってスプラッター描写よりも、メイが可哀想すぎて何度もくじけそうになった。
彼女は彼女なりに純粋で、普通に人を愛したり愛されたりしたいのに、その「普通」の部分が狂ってしまってるがゆえに上手くできない。そんなメイを見ているのは、グロを見るよりも数十倍つらい。
主演のアンジェラ・ベティスは当時26歳だが、外見は無垢な少女のように愛らしくてキュートだ。恋を知らない女の子をモジモジと演じ、初っ端から観客の心を鷲掴みである。俺なら彼女を幸せにしてやれた!とか妄想したホラーファンも多いのではないだろうか。
監督はこれが初監督作品だったラッキー・マッキー。続く第二作『虫おんな』、第三作『怨霊の森』でもアンジェラ・ベティスを起用している。
彼はホラー作家ジャック・ケッチャムの『黒い夏』の映画化に製作として関わっており、『老人と犬』の監督も務めた。新作はジャック・ケッチャムとの共著で監督も務めた『THE WOMEN』。『オフシーズン』『襲撃者の夜』に続く食人族ホラーとのこと。こちらも楽しみで仕方ない。いま大注目の監督である。


47.『屋敷女』
監督はジュリアン・モーリーとアレクサンドル・バスティロ。
おそらくいちばん最初に「マジでフランスがヤバイ」という事実を日本のホラーファンに知らしめた映画。だって『ハイテンション』は、言ってしまえば微妙……いや、まあ面白いけどね!でもオチとか含めるとちょっとアレでしょ?というわけで『屋敷女』なのだが、日本の漫画『座敷女』とは関係ないです。
お話はとてもシンプル。出産を直前に控えた妊婦である主人公の元にいきなり女(ベアトリス・ダル!)がやってきて襲撃される、というもの。マジでそれだけ。冒頭のちょっとした日常風景以外は、ずっと家の中での攻防が続きます。
思いのほか早くに本題であるバイオレンスパートに入られたので、残り時間を計算して不安で心が折れそうになったのもいい思い出。
この映画、とりあえずくれぐれもネタバレには注意してほしい。ネタバレには二種類あって、重要なネタバレとどうでもいいネタバレとあるんだけど、物語の背景にまつわるほうは正直どうでもいいです。クライマックスに何があるか、については絶対に調べないようにしたい!
ちなみにセル版は「アンレイテッド版」でモザイクなし、レンタル版はモザイクありだそうで。モザイクありのレンタル版DVDも欲しいなあ。
強烈なバイオレンスに餓えている人、女同士の戦いが見たい人、痛いのが好きな人は必見。妊婦の人はくれぐれもスルー推奨。


48.『遊星からの物体X』
邦題が秀逸!と思ったら『遊星よりの物体X』が恨めしそうにこっちを見ていた。そう、この映画はジョン・カーペンターによるリメイクなのだ。
南極にある観測基地を舞台に、人間に寄生する宇宙生物(the thing)の恐怖を描くSFホラー。よくあるモンスターパニック映画ではなく、閉鎖されて逃げ場のない極限状況において仲間と怪物の区別がつかないという、恐怖と疑心暗鬼を描いた心理スリラー要素の強い映画。
思わぬ新機軸というか『死霊のしたたり』?とすら思えるグロテスクなクリーチャーデザインは必見。犬派の人は注意!
人間そっくりの怪物と人間をどう区別するか、という問題において登場人物たちはずいぶんと頭を悩ませるわけだが、提示された解決法は思わずひざを打つもの! 頭いいなあ。そのへんも全部ひっくるめて、漫画『寄生獣』はこの映画の影響下にあると思われる。
人体がボコボコ変形してグッチャグッチャの映画も見たいけれどシリアスな映画も見たい、という欲張りな人にはうってつけだ。
ちなみにロバート・ロドリゲス監督の『パラサイト』は、(ソースはないが)本作のリメイクだと思われる。ストーリーも脚本のケヴィン・ウィリアムソンらしい舞台を学園に移してのティーンエイジホラーになっているので、こっちのほうが見やすいかも。主演もイライジャ・ウッドにジョシュ・ハートネットだしね。


49.『リング』
もはや知らない人間はいないであろうJホラーの代表作。映画を見たことがない人でも、貞子という名前は知っているだろう。
映画評でこんなことを言うのもどうかと思うが、本当に面白いのは原作小説で、ついでVシネマ版(高橋克典のやつ)、そして映画の順に出来がよい。まあ、映画はあの鮮烈なビジュアルイメージを作り出した時点で勝利だし、テンポとか尺の都合で中盤の謎解きは端折らざるを得ないのは分かるけど。
単なる「幽霊の呪い」というプロットにとどまらず、そこにビデオテープという原題的なガジェットを持ち込んだことがまず天才すぎる。そして映像解析による謎解き・推理要素、そして親が子を守るという家族愛、全ての歯車がきっちりかみ合って機能しているのも素晴らしい……って、これは原作の評価か。
映画的にはやっぱり呪いのビデオの中身が最大の功績ではないだろうか。だってマジで怖かったもの。
ちなみに対になる『らせん』は非常にコメントしづらい。見なくてもいい、とは言わないが、見ても別に……くらいの感じか。『リング0 バースデイ』はどうでもよすぎて未見。映画オリジナル続編の『リング2』はパラレル設定で、かなり思い切ったオリジナル脚本で好感が持てる。
ハリウッドリメイク版『ザ・リング』は細部が異なる上に蛇足気味の部分が目に付くが、オリジナルのビジュアルイメージを一歩推し進め、映像的には見どころのある有意義なリメイクに仕上がっている。続編の『ザ・リング2』はさすがにどうなのか?と思ったが。
『リング3D』の公開も決定しているので、前作のモヤモヤを一気に吹き飛ばしてほしいね。スクリーンからサマラ(貞子)が出てくるなんて想像しただけでもニヤニヤしてしまう。楽しみ!


50.『REC/レック』
スペインの鬼才ジャウマ・バラゲロ監督作品からとにかく一つ入れたかったので、これをチョイス。POV映画の代表作でもあるし。
POVとはポイント・オブ・ビュー、つまり一人称視点によって、まるで映画を実際に体験しているかのような感覚で楽しめる映画手法のこと。基本的には「登場人物の持っているハンディカメラで撮影された記録映像」等のスタイルで描かれることが多い。他に『食人族』、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』、『クローバーフィールド』、『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』などがある。
消防士の活動を密着取材するために消防署に来ていた女性レポーターとカメラマンが、取材中に訪れたアパートで凶暴化した人間(感染者ゾンビ)に襲われるというサバイバルホラー。
とにかくこの映画がよく出来ている点は、主人公がテレビクルーだという点に尽きる。POV映画には「生きるか死ぬかの状況で撮ってんじゃねーよ!」という、超覚める瞬間が多々ある(特に『クローバーフィールド』)。だが、この映画ではそのあたりの処理が上手く、撮り続けることが義務なのだという心情を無理なく観客に納得させるような舞台設定が整っているのだ。
あと、ここが一番重要なのだが、なんといってもテレビなので、女性レポーターが映っている! これが愛嬌があってかわいい! これは殺伐としたこの映画において超重要な役割を果たしていると言える。何言ってんだ、と思われるかもしれないけどマジだから仕方ない。
アパート内の緊張感ある探索(ゾンビマジ怖い)、「うわあ……」って思うような展開の連続、そして衝撃の結末、これらは他のゾンビ映画ではけして味わえない感覚といえるので、ぜひ観てほしい。
続編である『REC/レック2』はスタッフ続投でストーリーも一作目のそのまんま続きなので、こちらも必見。ハリウッドリメイクの『レック・ザ・クアランティン』は出来はいいもののオリジナルとの差異が全くといっていいほどないので、オリジナルを見ておけば十分では……と思ったりも。
ジャウマ・バラゲロ監督作品では他に『ダークネス』、『機械じかけの小児病棟』と、少し毛色は違うが『悪魔の管理人』も観ておきたい。
『ネイムレス/無名恐怖』もいいけどね。現在は廃盤だし、個人的にはあまり好みではなかったのでオススメはしない。かといって駄作という訳ではけしてないので、監督の作風が気に入れば観る価値は十二分にある、と言っておく。



というわけで、現代ホラー映画50選でした。あなたのイチオシのホラー映画は入っていたでしょうか。せっかくなので、あなたのオススメのホラー映画もコメント欄に書いていってくれると嬉しいです。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。


散文(批評随筆小説等) 【批評祭参加作品】 現代ホラー映画50選(5) Copyright 古月 2011-03-05 20:51:49
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