【批評祭参加作品】 現代ホラー映画50選(4)
古月

(3)のつづき


31.『ヒッチャー』
ルトガー・ハウアーが恐い!という映画。
何も考えずにヒッチハイカーを乗せてはいけないという教訓が含まれているとかいないとか。
なんの動機もないのにいきなり目をつけられて、地の果てまで追ってこられて、その過程で人がバンバン巻き添えで死にまくる理不尽さが恐い。クライマックスの駐車場でのあれはマジで衝撃。
『激突!』や『ロード・キラー』、『悪魔の追跡』などと似てるようでも決定的に違うのは、やっぱりヒッチハイカー殺人鬼に自前の移動手段がないこと。よし逃げ切った!と思ったら車もないくせに神出鬼没!というのは一歩間違えたらギャグ、というか半歩くらい間違えてもうギャグになってるんだけど、見てるこっちも笑いながら頬が引きつってる感じで、なかなかどうしてよくできてる。
ちょっと映画の空気が陽性なので、ホラー映画というよりアクション映画のモードで見てしまいがちなのが残念といえば残念か。
ちなみにリメイク版もなかなかの出来なんだけど、やはりそれよりもルトガー・ハウアーのレプリカント的な「こいつ心あるの?」という恐怖を見てほしいかな。


32.『ヒルズ・ハブ・アイズ』
これはウェス・クレイヴンの『サランドラ』のリメイクなのだが、残念ながらそっちは見る機会がなく未見。ジョギリ……。
『ハイテンション』でホラー映画界きっての有望新人として脚光を浴びたフランス人監督、アレクサンドル・アジャの地位を不動のものにしたハリウッドデビュー作。
アメリカの田舎にはいろんなところに食人一家がいるというのはもうご承知の通りだと思うが、こちらは荒野でも森でもなく、砂漠。しかも核実験場(!)。『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』は多くの人がご覧になったかと思われるが、あれのオープニング・シーンを見ていると日本人でも本作の意味が分かりやすいんじゃないだろうか。
さて、核実験といえば放射能であり、放射能といえば被爆者である。なぜか田舎の食人一家には奇形がつきもので、血が濃いとか廃棄物汚染だとか理由は様々なのだが、本作はまあこれ、というわけ。日本は被爆国なのでタブーですよね。おかげでレンタル大手のツタヤでは、この映画は全店取り扱いをしておりません。個人的にはそういうのって逆におかしいと思うけど、配慮なんだろうな。
今回襲われる犠牲者一家はけっこうな大所帯で、キャンピングカーで旅をしている。一家を率いる頼れるパパさんは共和党員(銃社会支持)で元警官、それに対していかにもヘナチョコな携帯電話販売員のムコ殿は民主党員で銃大嫌い。この対比が後に重要な意味を持ってくるあたりが非常に面白い。
興を殺ぐようなネタバレはやめておくが、この映画のポイントは、「弱いものが一方的に狩られる映画」ではなく「狩られる側が狩る側に牙をむく映画」だということ。都会の家族vs田舎の家族という図式で、まさしく殺るか殺られるかのサバイバルが行われる。現代社会において動物としての闘争本能は抑圧され、都会の人間は牙のむき方すら知らない。そういった人々が極限の状況に追い込まれ、ブチ切れる様子は非常にカタルシスがある。
単なるホラーとしてだけではない、家族の絆の物語としてみることもできる名作。グロシーンは少ない。超オススメだから今すぐアマゾンで買ってよし。


33.『ファイナル・デスティネーション』
通称「死のピタゴラスイッチ」。予知能力によって大事故の運命を免れたティーンエイジャーたちから、死神(運命をつかさどる見えざる力)が「本来失われるはずだった命」を取り立てようと必死で死の罠を仕掛けてくる!というわけで、こちらも予知能力を使ってそれを回避!という非常に説明しづらい話。まあ、観たら一発で分かるので観てね。
シリーズはいまのところ四作目まで出ていて、『デッド・コースター/ファイナル・デスティネーション2』、『ファイナル・デッドコースター』、『ファイナル・デッドサーキット3D』と続いている。
いずれも冒頭に起きる「必要以上にド派手で悲惨な事故」が見どころのひとつで、作品によってはここしか見所のない出オチ映画もある。
この映画の肝は主人公と死神との駆け引きなわけだが、実はそれ以上に「死のルール」すなわち法則性を見つけ出すという点にある。つまり、死神がターゲットに定める人間には一定の条件があり、それを回避すれば助かるというわけ。ここがマジで重要になってくるわけだが、残念なことに製作側が馬鹿なのかして、回を重ねるごとにそのルールがいい加減になっていく。
なので、普通は「絶対に死ぬわけないと思ってたら死んだ! サプライズ!」ってなるべきところが「そいつ死ぬのルール違反だろ! 金返せ!」ってなる。特に許しがたいのは、三作目『ファイナル・デッドコースター』の監督が、このシリーズの生みの親であるジェームズ・ウォン自身なのに、それをやっちまったということ。自分で作っといて自分で最低の駄作を作ってれば世話ないな!というわけで、まあこのへんからは期待しないでほしい。
ともあれ『ファイナル・デスティネーション』、『デッド・コースター』(監督はデヴィッド・エリス)までは完璧に傑作なので、ぜひ死ぬ前に観ておきたい。
ピタゴラスイッチ的な要素も含めて、笑いながら楽しく観れます。なお、運命について語る役どころを演じる『キャンディマン』のトニー・トッドの存在感にも注目。


34.『ファニーゲーム』
とりあえず何も言いたくないっていうか、言うべきではないっていうか。鬱映画といえばこれ、みたいな超ヤバい映画。
ミヒャエル・ハネケの映画は文芸映画っぽい佇まいでいながら、どれもこれも病気(個人的感想です)。皮肉なことにホラーに振り切れた本作のほうが逆に健全に見えたりするから困る(個人的感想です!)。
バカンスを楽しむ夫婦の前に二人の男が現れて、しょっぱなからドギツい暴力を振るう。そして「明日の朝までおまえらが生きてられるかゲームしようぜ(笑)」ということで、それがタイトルの「ファニーゲーム」ってわけ。
セルフリメイクの『ファニーゲームUSA』もあるけど、そっちは未見。ネットで見る限り、違いはないみたいだけどどうなのかな。
ちなみに見るのにグロ耐性は必要ないです。そういうこけおどしに頼らずとも、心のほうをバキバキに折ってくるので。


35.『フィースト』
製作総指揮がベン・アフレック、マット・デイモン、クリス・ムーア、ウェス・クレイヴンという物凄いメンツの映画。プロジェクト・グリーンライトという脚本コンテストから生まれた。
監督はジョン・ギャラガー。脚本はマーカス・ダンストンとパトリック・メルトンのコンビ。彼らは『ソウ』シリーズ後半で脚本を努めたことで有名。あとはマイナーだが『ワナオトコ』とか。
荒野のど真ん中にある一軒の酒場に、突然ショットガンを持った男が駆け込んでくる。自分はモンスターに襲われた、急いでドアを封鎖しろと男はいう。そこからはクライマックスまでずっと、人間vsモンスターの血まみれゲロまみれのグチョグチョの死闘が繰り広げられる。正直言ってマジで悪趣味なので注意してほしい。
だが、だからと言って観ない、というのは早計、もったいないのでちょっと待ってほしい。この映画には「ホラー映画ファンの予想をことごとく裏切る」というテーマがある。ホラー映画を数多く見ていると、ある種のお約束があることに気付く。「このフラグが立ったらこうなる」的な。この映画はそのフラグの裏をかき、観客の予想の斜め上を行くことに全力投球した映画なのだ。
なので、マジで展開の予想がつかず、誰が生き残るのか分からない。久しぶりにドキドキできる映画きたな!という感じだ。どうだ、こう言われたらなんか見たくなってきただろう!(そんなことない?)
と、あんまり煽ると「そんなに面白くなかったぞ!」ってなるからこのへんにしておくけど、まあけっこう拾い物なので観たらいいと思う。
ちなみにストーリーが完全に繋がっている(1の生存者が引き続きサバイバルする)続編に『フィースト2 怪物復活』『フィースト3 最終決戦』があるが、これを見るときはマジで自己責任でお願いしたい。想像もつかないレベルの駄作! なんかもう怒りを通り越して笑えてきて、それが一周してやっぱり怒るくらいの出来。熱心なホラーファンか、マゾか、あと暇で暇で仕方ない人以外は見なくていいです。


36.『フェノミナ』
ダリオ・アルジェントの「美少女虐めホラー」としてはこれが最高傑作なのではないだろうか、と思う本作。
とにかく他のアルジェント作品に比べてストーリー面での牽引力が強く、とくべつ努力することもなく最後まで見れたので驚いた。
主人公は昆虫と心を通わせる超能力を持つ少女で、ジェニファー・コネリーが演じている。また、彼女と親しくなる昆虫学の博士にドナルド・プレザンス、女教師ブルックナーにダリア・ニコロディと、脇の配役も完璧である。
ここでいう昆虫学とはいわゆる昆虫の研究のそれではなく、『CSI:科学捜査班』で一躍有名になったあれ、蛆虫の成長具合などから死体の死亡時期を割り出したりするやつだ。見た当時はそんな知識ゼロだったのでずいぶん興奮しながら観たのを覚えている。
さて、この映画の見どころといえばなんと言っても、かの有名な「蛆虫プール」だろう。蛆虫プールと言われてどんなものを想像するだろうか? 興味があれば画像検索してみてもいいかも。おかゆの中に叩き込まれて溺れるような状態で、超気持ち悪いから。
比較的見やすい部類の映画ではあるし、やっぱりこれもクラウディオ・シモネッティ(GOBLIN)による音楽が素晴らしいので是非見てほしい。
なお、名作ホラーゲーム『クロックタワー』は、本作へのオマージュ。


37.『ブレインデッド』
『ロード・オブ・ザ・リング』で一躍その名を知らしめた、ニュージーランドが誇る天才クリエーター、ピーター・ジャクソンの最高傑作。
「ビデオ版のパッケージが詐欺」「ゾンビベビーが可愛い、と思ったがそうでもなかった」「こんなでかいババアがいるか」「芝刈り機」と、話題性には事欠かない、超血まみれラブロマンス。
とにかく最初から最後までブラックな笑いに満ちていて、クライマックスのゾンビ大発生は物凄いテンション! 殺して殺して殺しまくる! そしてホラー映画史上最高に血まみれ!(キャリーより血まみれ)
DVDはずっと廃盤になっててプレミアがつきまくっていたが、ちょっと前に『デッド・アライブ ブレインデッド米国編集版』というタイトルで(1500円という低価格!)リリースされているのでそっちをゲットしよう。編集版といっても致命的なカットはないので安心。


38.『フロム・ダスク・ティル・ドーン』
最初は『プラネット・テラー』にしようかと思ったが、ロバート・ロドリゲスの映画ではこっちのほうが好きだったのでこっちを選んだ。
前半と後半で映画がガラッと変わるので、予備知識なしで観ると死ぬほどビックリする映画。
これ言ってもいいのかなー、と悩むが、どのくらい有名なんだろう? 監督が監督だし、かなり知られてるのかな? と迷ったあげくDVDのパッケージがネタバレをしているかどうかをチェックしてきました。うん、やはりネタバレはしてはいけないようだな! 死ぬまでに視聴予定のある人は絶対にぐぐったり、wikiったりしないでね。
物語としては、ジョージ・クルーニーとクエンティン・タランティーノが演じる凶悪犯・ゲッコー兄弟の逃亡劇。トム・サヴィーニ演じるセックスマシーンは最高!
タランティーノとかロドリゲスとか好きだわーと思ったらネタバレされる前にさっさと見よう。
ちなみに『2』は銀行強盗の映画で、『3』は西部開拓時代のお話だけど、くれぐれもこっちも情報を集めたりしないようにしよう。一作目に関してはネタバレに配慮してくれているサイトも、こっちでは容赦なくバラしてるので。あーもう!こんな駄文読んでないではやく借りに行けば!


39.『フロンティア』
またフランスか!というわけで、またしても登場のフレンチ・パワフル・悪魔のいけにえ系ホラー。ザヴィエ・ジャン監督は『ヒットマン』はイマイチだったが、『ザ・ホード 死霊の大群』でもリミッターの壊れた突っ走り方を見せているのでまだまだ安心。
治安最悪のパリで混乱に乗じて銀行強盗を成功させた移民の五人組。警察の追跡を振り切りながらたどり着いたのは、国境近くにある一軒の宿屋だった。だが、ほっとしたのもつかの間、五人は想像もつかない理不尽な理由で、苛烈な暴力にさらされることになる。
この「理由」の部分が肝なのであんまりネタバレしたくないし、情報を集めてほしくないのでいちおう注意しておこうと思う。まあネタバレしたところでそこまで深刻な被害があるわけではないのだが、個人的には「おっ」と思ったところだったので。
この映画、「襲う側」の家族がけっこう大所帯で、普通はそれこそ4人くらいなのでビックリする。彼らには家族間の確執というか競争があり、なんか家族というよりは組織、という感じなのだが、それにも理由がある。このへんがネタバレに繋がってくるわけなんだけど。家長のオッサンは超ナイスキャラ!
展開的には辻褄の合わなそうなところとか納得の行かないところもあるんだけど、そのへんは全部勢いで押し切れる。僕の知る限り、終盤の展開でアレをやったのはこの映画だけなんじゃなかろうか。アクション映画では日常茶飯事レベルのシークエンスでも、このタイプの映画で出てくると変な脳汁が出てくるなあと興味深く感じた。やはりホラーの醍醐味は抑圧と開放だよ。
と、さっきから勢いとパワフルさばっかり推してるけど、この映画には物凄い抒情的な場面がある。まあ、観たらハッキリ分かるので、わざわざここで詳細は言わないけど……二人のキャラクターの心の交流がこの映画に奥行きを与え、ああ、これはもう一人の彼女なのだな、と胸に迫るものがあるので必見、とだけ言っておく。


40.『ヘル・レイザー』
言わずと知れたホラー小説の巨匠クライヴ・バーカーの、映画監督としての代表作。
アマゾンによればDVDが2001年に発売されたことになっているのだが、これ本当に発売されたのか?とずっと疑問に思っている。ていうか存在しないだろ?
今手に入るのは『ヘル・レイザー4』、『ゲート・オブ・インフェルノ』、『リターン・オブ・ナイトメア』、『ワールド・オブ・ペイン』、『ヘル・ワールド』というある種の派生ばかりである。やはり『ヘル・レイザー』は3までで、あとは外伝みたいなものだな。
と、前置きというか愚痴が長くなったが、とりあえず本作はピンヘッドを始めとする地獄のSM魔導士による、苦痛と快楽と道徳のおしおきワールドなのだ。「究極の快楽をもたらす」というパズルボックスを開けた者の前に魔導士が現れ、地獄のような拷問が……というのが物語の基本的な流れ。
実際のところ、それ以上の内容はないし、ネタバレになるのもいけないし、ぶっちゃけていうと物語がよく理解できない(!)ので何も言えません。
唯一言えるとすれば、『ヘル・レイザー3』はなんだかちょっと毛色が違っていて、ギャグみたいな魔導士が大暴れ!というエンターテイメント路線だったのがモヤモヤする、ということか。
最近はどうやら心理スリラー路線になっているらしく、『ゲート・オブ・インフェルノ』なんかは出来のよい小品だと思うのでお勧め(監督は『エミリー・ローズ』のスコット・デリクソン!)。
内容についていろいろ書きたいのはやまやまだが、視覚的な要素が非常に強く、実際こればかりは観てもらわないと分からないと思う。他の追随を許さないビジュアルイメージと、イカれた精神性。ブルーレイ時代の到来を期に、どっかボックスで(パズルボックス仕様のパッケージで)出してくれないものかな。
ところでクライヴ・バーカーといえば、『ミディアン』(主演:デヴィッド・クローネンバーグ)がなかなか面白かったのでついでに書いておく。「ああ、こういうまともなのも撮れるんだ……」と妙に安心したのを覚えている。


(5)につづく


散文(批評随筆小説等) 【批評祭参加作品】 現代ホラー映画50選(4) Copyright 古月 2011-03-05 20:51:47
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