【批評祭参加作品】 現代ホラー映画50選(1)
古月

こんにちは。現代ホラー映画50選を独断と偏見で発表していきます。
去年の批評祭で「現代詩フォーラム50選」という企画をやったツユサキさんからぜひやりましょうよ!と言われたのでやりました(とても楽しかった)。新しくホラー映画を観てみたいという人のガイドになれれば幸いです。
マニアの人は「なんでこの作品が入ってねーんだよ!」と思ったら、自分でレビュー書くか、コメント欄にバンバン書きましょう。待ってます。
これを読んでおけば間違いないどころか逆にホラー映画史に残る名作もザクザク落としましたけど、なにせ枠が50しかないので全部とか無理です。続編やリメイクは一部の例外を除いてひとつとカウントしても無理なんですから無理です。
というわけで僕の趣味が前面に出まくっていると思うけど、なるべくマニアックすぎるものや今日視聴が困難なものは避ける方向で選んだので、レンタルビデオ屋に行く前にでも読んでくれたらいいな、と思います。
なお、順番には意味はなく、単なる五十音順です。


1.『悪魔のいけにえ』
あまりにも好きすぎて逆に何を書いていいのか分からない、という困った映画。
その芸術性の高さから、マスターフィルムがニューヨーク近代美術館に永久保存されているのは有名。
都会からきた若者たちが田舎の食人一家に襲われる、というシンプルな筋立てながら、あらゆるシーンがリアルで狂気に満ちている本作だが、それもそのはずこの映画、撮影環境が非常に劣悪で、スタッフも俳優もみな狂気ギリギリの状態で撮影が行われた。外の気温が体温を超える中、締めきった室内で撮影用ライトを照らして行われた撮影は過酷を極め、監督が衣装の洗濯を禁止したことで俳優達は汗や血の悪臭の中で演技することとなった。
また、ガラスを突き破るシーンでは撮影用のキャンディガラスを買う予算がなかったため実際のガラスが使用されており、怪我も本物。レザーフェイス役のガンナー・ハンセンも、チェーンソーで足を怪我するシーンで、足を保護するための鉄板とチェーンソーの摩擦熱で大やけどを負った。
もはや何が演技で何が本気か分からない異常な状態で、悲鳴や絶叫のいくつかは実際ほぼ演技ではない。演技のふりをしたマジ切れである。スタッフはみなヒロインであるマリリン・バーンズの金切り声に苛立っていて、ジム・シードゥの台詞「あのメス犬をぶち殺せ!」はスタッフの心の叫びだったとガンナー・ハンセンは語る。そしてマリリン・バーンズもまた撮影の中での苦痛にマジ切れし、監督の「カット」の声が聞こえないほど本気で悲鳴を上げた。
これらの圧倒的マイナス要素から生まれたヤケクソ演技が、ザラザラした映像や抑え目な演出との相乗効果で映画に恐ろしいほどのリアリティを与えている。(このへんの逸話のソースはたぶん映画秘宝)。
昔はビームエンタテイメントの糞マスター(画面が真っ暗に潰れていてなにがなんだか)でしか観る術がなく、そんなものでもヤフオクで2万とかで取引されていたものだが、現在はなんと高画質のブルーレイがお店で買える。そんないい時代に『悪魔のいけにえ』を見ないなんておかしいよ!
というわけで、もはや超えようと思っても超えられないホラー映画の金字塔、みんなどんどん見よう。
ちなみに『悪魔のいけにえ2』は正統続編なので、こちらもぜひ。
『3』は人食い一家の設定だけを継承した別物でリメイクに近いが、わりと面白い。四作目の『レジェンド・オブ・レザーフェイス』はマシュー・マコノヒー、レニー・ゼルウィガーという(今にしてみれば)圧倒的豪華キャストにもかかわらず駄作で、まあ一向にDVD化されないのも無理ないか、という感じではあるものの、キングレコードあたり早く買い付けろと言いたい。


2.『テキサス・チェーンソー』
長くなったので分けました。前述の『悪魔のいけにえ』のリメイク。ただし設定はかなり変わっている。
『アルマゲドン』や『パール・ハーバー』などのフォルモグラフィから日本では低脳映画専門のプロデューサーみたいに言われがちなマイケル・ベイが、『バッドボーイズ2バッド』でその片鱗を見せたホラー映画好きを大爆発させた(ホラー専門のレーベルまで立ち上げた)、まさに神リメイク。
大抵リメイクはオリジナルには遠く及ばないのが普通だが、本作にはオリジナルに比べても「よくやった!」と言える部分がある。それが R・リー・アーメイの起用。『フルメタル・ジャケット』のハートマン軍曹の人ね。この人があのノリで保安官を演じて、権力を盾に職権乱用しまくり! これは恐い。
『悪魔のいけにえ』は見てみたいけど、古い映画は苦手……という輩はこっちでもいいのよ(気に入ったらオリジナルみてね!)。スタイリッシュな映像とともに、理不尽な暴力に晒される恐怖を楽しんでほしい。
ちなみに続編の『テキサス・チェーンソー・ビギニング』は前日譚だが、個人的にはいまひとつパンチに欠けると思った。この手の前日譚ものは『モーテル』もそうだが、どうしても前作との整合性を取るために制約があるので展開がおとなしくなるね。それならそれで大量虐殺にシフトチェンジするとかやり方があったと思うんだが。


3.『インプリント 〜ぼっけえ、きょうてえ〜』
なんとなく三池崇史から一本入れておかねばならないような気がしたので、これを。あまりの内容にアメリカでは上映禁止になった(なんでだろ)という話題性もさることながら、映像的にたいへん美しかったので。
ビリー・ドラゴ演じる記者(主人公)は、小桃という芸者を探して岡山の浮島にある遊郭を訪れるのだが、そこで恐ろしい物語を聞かされる……というお話。なんか日本人の中に外国人が一人という図は、『陰獣』のブノワ・マジメルもそうだが、それだけで絵的に奇妙で面白い。
この映画、前述のようにアメリカでは規制がかけられてしまったわけで、正直そのせいでなかなか見る勇気が出なかった。原作の『ぼっけえ、きょうてえ』(岩井志麻子)は読んでいたので、どこがどんなふうにグロいのかを想像してしまって、想像力が暴走してしまったというわけ。
でもあの拷問シーン、演じているのが著者である岩井志麻子本人だと知ってしまうと、完全にこの映画は裏返る。どう見てもギャグ。もうほんとノリノリで、しかもけっこう演技上手いのね! マジびっくりよ。
そういう点も含めてわりと普通なので、ビジュアルイメージを見るためだけに見てもよい。恐怖を求めなければけっこうオススメ。


4.『ウィッシュマスター』
マスター・オブ・ホラーことウェス・クレイヴン製作総指揮の傑作「ランプの魔人」ホラー。まあランプじゃないけど。
呼び出すとなんでも願いを三つ叶えてくれるジンが現代に復活! 普段は宝石の中に閉じ込められているが、それに息を吹きかけてこするとドロンと出てくるところも同じ。だが、ひとつだけ違うのは、ジンを蘇らせた人間の三つの願いが成就してしまうと、地獄の門が開いてこの世はジンに支配されてしまうということ。宝石鑑定人の主人公はそれを回避しようと命がけの知恵比べをすることに……。
ジンは力を蓄えるために、街でいろんな人間にどんどん願い事を聞いていく。だが、その願い事はことごとくジンに都合のいいように拡大解釈され、みんな惨い死を遂げていく! このへんはSFXも見ごたえがあるし、笑えるし、かなり面白い!
展開にも無理がなく、最後までドキドキしながら見られるB級ホラーのお手本のような傑作。
ちなみにゲストとして『13日の金曜日』でジェイソンを演じるケイン・ホッダー、『エルム街の悪夢』でフレディを演じるロバート・イングランド、『キャンディマン』でキャンディマンを演じるトニー・トッドが勢揃いするのもホラーファンには見どころのひとつ。
あまり有名ではないが、隠れた傑作なのでチェックしておきたい。
なお、続編の『ウィッシュマスター2 スーペリア』はDVD化されておらず、未見。三作目『ウィッシュマスター リダックス』と四作目『ブラッドシェッド』はいつの間にか天使と悪魔の対決みたいな壮大なストーリーに路線変更していて大型地雷と化しているので、気をつけて踏むように。これは両作品の監督クリス・エンジェルのせいなんだろうなー、きっと。
ついでに書いておくと『ブラッドシェッド』のDVDは密閉された紙箱に入っており、ビリビリ破らないと開けられないという誰得仕様! これはなんか意味のなさが突き抜けてて逆に清々しかったので書いておきます。マジどうでもいいけど。


5.『エルム街の悪夢』
最近リメイク版がすべったことで有名……どころか世間的には「リメイクされたの?」というありさまの本作。
やはりロバート・イングランドは偉大だったということか。
シリーズとしてはこちらもせいぜい楽しめるのは3までで、「これは夢か現実か?」という虚実の境目で獲物をいたぶり殺すフレディの手口も「4」以降はバラエティ路線に変わり、映画も「夢でなら何でもできる」という側面を強く押し出したヒロイックなアクション・ホラーにシフトしていく。それと同時にフレディのキャラクターも残忍な殺人鬼からファニーなモンスターに変貌した。
ただ、やっていることは依然として残酷な殺人なので、その陽性の雰囲気とのギャップがよけいにブラックな笑いに繋がっていると言えなくもないが。問題の所在はたぶん監督の演出意図がどこにあるか、なのだろう。
『エルム街の悪夢』の面白いところは「絶対に倒せない無敵の怪物を倒すにはどうすればいいか」という問題にひとつの答えを出した点。そして、その解決法が映画の中で親世代と子供世代の確執や軋轢を生み、単なるスプラッターにとどまらない深いドラマを作り出している。このあたりはさすがマスター・オブ・ホラー、ウェス・クレイヴンといったところ。
シリーズは『リアル・ナイトメア』という、よく言えばメタ、悪く言えば楽屋オチな映画を最後に自然消滅してしまい、『フレディvsジェイソン』での華々しい復活に涙した人も多いだろう。
個人的にはロバート・イングランドに生涯フレディを演じてほしかったが、そうもいかないのかな。やはりこういう俳優の個性が強く出る殺人鬼はリメイクには不向きだな。『キャンディマン』なんかもトニー・トッドのイメージが強すぎて難しいだろうと思う。


6.『キューブ』
かなり有名なので、あえて語る必要もないかもしれないが、いちおう。
目が覚めると謎の立方体の中に閉じ込められており、上下左右6方向には扉、扉の向こうにはまたそっくり同じ立方体……ここはどこ?という映画。シンプルなセットとキャッチーな設定、そして残酷なトラップが話題を呼び、大ヒットした。
どうやって脱出するか、という知的な興味や派手な仕掛けで物語を牽引する一方で隠された人間の本性の発露を描いたりして、立派に「ネタ一発ではないちゃんとしたスリラー」として成功している。
結末については意味不明というかなんというか、とにかく賛否両論あったわけだが、今にして思えば何もかも懐かしい。続編の『キューブ2』、前日譚である『CUBE ZERO』を続けて観てもらえれば、いろんな意味で納得してもらえるだろうと思う。続編は諸刃の刃という典型例。
なお、『デス・キューブ』、『キューブIQ』、『キューブIQハザード』、『キューブ・ハザードX』、『キューブ・ホスピタル』、『キューブネクスト』、『キューブレッド』はいずれも続編ではないので要注意。


7・『クライモリ』
またまた食人一家モノ。こっちはテキサスの荒野とは打って変わってウエストバージニア州の深い森のど真ん中。
森に住む奇形の食人一家が通りかかるドライバーを襲撃して暮らしているという、もうほんとアメリカ勘弁して、みたいなお話。
本作に出てくる食人族「マウンテンマン」だが、知能はかなり低い、が、狩猟のスキルがかなり高い。ふつうこういうホラー映画では、怪物が銃を撃ったり弓矢を放ったりしても、そんな当たらないよね! でも、この映画は違う。観てて「えっ」て声が出るくらいの精度で当ててくる! これは新しいなと思った。
ちなみにこの映画、ホラー初心者の入門としてはうってつけだと個人的には思っている。「こんな映画ばっかり紹介されても恐いの無理だから見ない!」っていう人は、とりあえずこれを見ましょう。なぜなら主演が『トゥルー・コーリング』のエリザ・ドゥシュク(吹き替えは松本梨香)、そしてそのパートナー(?)として行動する男性の吹き替えを小山力也(ジャック・バウアーでおなじみ)が担当している。これはかーなーり観やすい。
はっきり言って、「ちょっとグロいアクション映画」として見れるレベル。でも映画の内容自体はディープなホラーファンが観ても納得できるレベルなので、ほんとマジおすすめ。
なお、続編の『クライモリ デッドエンド』もオススメできるレベルの佳作だが、グロ度が大幅にアップしているので注意。低予算なのでCGがちょっとアレだけど。
三作目の『クライモリ デッド・リターン』は「あれっ……」という出来。まあ、ファンなら見てもいいのでは?くらい。
そして『クライモリ 禁猟区』は、パッケージが詐欺レベルで似ているけど『クライモリ』とは何の関係もないイギリス産ホラーなので注意! これを平然とクライモリシリーズと並べているレンタルビデオ屋は多いけど、ほんとやめてあげて!と思う。まあ、こういう詐欺行為をはたらくタキコーポレーションが悪いんだけど。


8・『ザ・グリード』
後に『ハムナプトラ』シリーズを大ヒットさせることになるスティーブン・ソマーズ監督によるモンスターパニック映画。
「喰って、喰って、喰いまくれ」のキャッチコピーどおりに、未知の深海生物が豪華客船の乗客3000人を食いまくり! 死の船と化した船内に、運悪く武装強盗の一味と、それに雇われた密輸船の乗組員達が乗り込んでしまう、というお話。
とにかく勢いだけで突っ走る、痛快な正統派モンスターアクション映画。銃器もふんだんに出てくるし、人食いの怪物も容赦ない。監督の志向が明らかにホラーではなく、明朗快活な冒険活劇にあることは既にこの映画の時点で明らかである。
登場するキャラクターも頼れるタフガイにお調子者の相棒、一癖ある女詐欺師と役者がそろい、見ていて気持ちがいい。
ド派手な決着と脱出、そしてラストシーンはお約束のあれ! いつになったら続編が作られるのか……と未だに待っている人は多いんではなかろうか。
映画監督として成功を収めた今だからこそ、スティーブン・ソマーズ監督には『ザ・グリード2』を撮ってほしい。


9・『サスペリア part2』
原題は『profondo rosso(deep red)』で、とりあえず言っておくと『サスペリア』とは一切関係ない。日本の配給会社が『サスペリア』のヒットを受けて勝手に続編扱いにしただけ。これには監督もビックリ。なにしろ『サスペリア』より前に撮られてるんだからね。
この映画はジャーロなのでホラー映画に含めていいのかちょっと疑問、どちらかと言えばサスペンスなのだけど、監督がダリオ・アルジェントなのでいろんなシーンがむやみに厭だ。グロいとか怖いんじゃなくて、なんかわかんないけどヤダっていう厭さ。
絵が怖い!人形が怖い!とか、そういうところばかりクローズアップされて見る前からリタイアしそうな人もいるかもしれないけど、ちょっと待ってほしい。あんまりホラーだと思わないで、見るときは単純にこの映画の持つ独特の空気感を楽しめばいいのではないでしょうか。実際、人形についてはあのなんとも言えないカタカタカタみたいな早回しみたいな動きは怖いけどな!
本作がダリオ・アルジェントの最高傑作であるのはだいたい異論はないだろうと思う。アルジェントの最高傑作ということはすなわちイタリア映画で最高傑作ということ(異論はちょっとくらい認める)。というわけで、未見の人は午後の優雅なひとときにでも教養として見ておきましょう。
主演のひとり、事件記者を演じるダリア・ニコロディのチャーミングな魅力がこの暗い映画に華やかさを添えているのもポイント高い。彼女はジェシカ・ハーパーやジェニファー・コネリーのような「美少女虐めホラー」と言われるジャンルの影のある儚げなヒロインとは違い、溌剌としていて男勝り。見ているこっちもテンション上がってきて「よし! 事件捜査するぞ!」っていう気になる。
ちなみにダリオ・アルジェントとダリア・ニコロディの間にできた子供が、あのアーシア・アルジェントである。父親に似なくてよかったね!


10・『サスペリア』
「決して、ひとりでは見ないでください」で有名な、ダリオ・アルジェントの代表作ともいえる「魔女三部作」の一作目。
個人的好きな女優ランキングの第一位からいまだに転落しない、ジェシカ・ハーパーのロリ可愛い魅力が光る不条理ホラー。
ロリ可愛いとは言っても撮影当時のジェシカ・ハーパーは28歳で、キャラクター設定は10代の娘であった。それでも全く違和感を感じさせないところがまた良い。ブライアン・デ・パルマの『ファントム・オブ・パラダイス』も必見。
『サスペリアpart2』もそうなのだが、この映画、ダリオ・アルジェント映画の持ち味である原色の色使いとゴブリンサウンドがいかんなく発揮され、見る側に異様な高揚感を与える。冒頭の雨のシーンからもうヤバい予感がしまくりで、そこからずっと「意味はないがとにかくなんか凄い」シーンが連続する。「なんでこうなってるの?」とかは考えたら負けで、そのへんは全部「不条理ホラーなんだから不条理でいい。不条理さを楽しんでいきたい」というスタンスで押し切る覚悟を持ってほしい。だいたいこの程度で意味不明とか言ってたら『インフェルノ』とかどうすんの? アルジェントファンでもリタイアするくらい意味不明なのに……。
と、こういう回りくどい予防線を張ったり内容にぜんぜん触れないあたり、扱いに難しい映画ではある。自分は好きだが人には勧めにくい映画の典型で、人によってはぜんぜん面白くない可能性もある。っていうか多分大多数の人には面白くないわ。他のジャーロをいくつか見た上で、たとえば『ソランジェ 残酷なメルヘン』とかを見て超ガッカリしてからもう一度アルジェントに戻ってくると良さに気付けるというか、とにかく「この手の映画の楽しみ方」を知る必要があるかもしれない。
なお、魔女三部作の二作目が『インフェルノ』なのは良いとして、三作目はルイジ・コッツィの『デモンズ6』ではなく『サスペリア・テルザ 最後の魔女』なので間違えないようにしたい。誰も間違えないか。


(2)につづく


散文(批評随筆小説等) 【批評祭参加作品】 現代ホラー映画50選(1) Copyright 古月 2011-03-04 20:28:20
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第5回批評祭参加作品