映画:ホラーハウス
ああああ


 立体的な音の表現は、聴覚の、というよりはむしろ触覚の芸術に近づく。
 『映画:ホラーハウス(Horror House:The Movie)』の冒頭、生き物の気配が充ち満ちた廃屋から鳩が飛び出してくるシーンでは、あなたは耳のすぐ横を何かがかすめていく感覚にくすぐったさを覚えるだろう。それはあなたには不快に感じられるものかもしれないが。



あらすじ:
(登場人物は矢印の示す方向に歩き続ける)




 主人公は、ひとり暮らし1年目の大学生で、日本の大学では入学式が終わってしばらくすると夏休みが始まる。
 そしてこれは私にとっては意外なできごとだったのだが、夏休みが始まり実家に帰ろうとしたとき、最寄りの駅から家までの道で迷ってしまった。駅前の人ごみを避けて細い道を選んだせいだとおもう。といっても人ごみと呼ぶほどの人ではないが。
 駅をおりるとロータリーで正面と斜め右には広い道があって地図で見るとこの辺はなにかの結び目みたいになってる。さっき細い道と書いた道に入るとそこも商店街、だけれど視野の両脇の店はいつもシャッターがおりてる気がする。まっすぐ進むと三叉路で、そこではコンビニをはさんで左側の道にいく。道に迷ったせいで、私は同じトラックと2回もすれ違った。このトラックはスピードをおとさずに幅よせをしてきたりして、悪意をもって私を付け回しているかのようだった。それはいいとしてコンビニ左側の道を行くとわりとすぐ商店街から抜けて、公園がある。この公園を左手に見ながら歩いていくと交差点があるので左折する。交差点の右手に、なぜか案山子がたてられた『月極駐車場』があるので目印になる。左折して歩道橋にあがれば、私の卒業した中学校と小学校がならんでいるのがみえるだろう。詳しい場所はかかないけど、私の実家はその近くのアパートで、この辺りまでくると街灯が少ないせいか、暗いとき、近所のコンビニは透明で光がもれていて質感が人形劇の舞台みたいだとおもう。私はこのコンビニでは買わなくてもいいようなものしか買ったことがない。100円ぐらいのお菓子とかだ。ここで私は作家の西尾維新がコンビニから出てくるのを目撃した。彼は、
「俺を暗い部屋に閉じ込めたのは誰だ。俺に小説を書かせようとする。このクソを断ち切るために書く。書くことしかできないのにそのことがやつらに書かされているのとかわらない世界」
 などとブツブツつぶやきながら、早歩きで私を追いこしていった。
 私は西尾氏の後を追う形になったのだが、西尾氏が私の実家と同じアパートに入って行ったので驚いた。しかし、鍵を開けて家に入ると、そこに西尾氏がいたので、さらに驚くことになった。
 「鍵盤をたたく。止めないことが大切。書くことが移動。この部屋を抜け出すことと書くことは同じ意味だから閉じ込められていても大丈夫」
 などと言いながら、西尾維新はノートパソコンのキーボードをカチャカチャ打っていた。私は怖くなって外に出た。しかし他に行くあてはない。が、しかし、評論家の東浩紀さんが隣のアパートの階段を降りてくるのを見つけたのだった。
 「こんにちは」
 「あ、はいこんにちは」
 「東浩紀さんですよね、評論家の」
 「あ、はい」
 「あの、私ファンです。阿部と言います」
 「はい、どうも」
 「ご近所だったんですね、びっくりしました」
 「はあ」
 「あの、今実は、困っていることがあって」
 「はい、なんでしょう」
 「東さん、作家の西尾維新ご存知ですよね」
 「はい」
 「良かった。あの、前、雑誌で対談してらっしゃったから。それで今、西尾氏がうちにいるんですよ。ドア開けたら、なんか勝手に西尾さんがうちに上がり込んでいて、それで、どうしましょう?」
 「あ、はい。そういうのはちょっと専門外なんで、警察に行ってもらったほうが」
 「そっか。そうですよね。この近くに交番ってありましたっけ」
 「駅の方まで行かないとないですね。あ、一緒にいきますよ」
 「え、ほんとうですか。ありがとうございます。すみません」
 「いや、ついでなんで」




 「あの、西尾維新の話していいですか」
 「あ、はい」
 「普通に小説がおもしろかったっていうはなしなんですけど、なんかでお化け屋敷のシーンあったじゃないですか」
 「ありましたっけ」
 「なんかであったんですけど、ぼくそれがすごい好きで」
 「なんでしたっけ、お化け屋敷」
 「同じ風景がしつこく描かれてると、舞台の書き割りみたいなっていうか、ドリフのセットみたいな感じに見えてくることってあるじゃないですか。
 あのーおんなじ字がいっぱい並んでると、『あれ、この字、こんな変な形だっけ』みたいになるような感じっていうか。
 そんな感じなんですよ。
 Aさんは不眠症で、もう1年近くまともに寝た記憶がなかったんだけど、それでもデートだからがんばっていくわけです。
 つぎ、あれいこっかー、ってなってAさんたちはそのお化け屋敷に入りました。係の人がきていいました。『ルールはかんたんです。3つ選択肢があるときはすべて一番左の道を選んでください。ハンドルを適当に左に回せばオッケーです』
 ふたりがのっている車がガタゴトうごきだしました。いわれた通り道は3本に分かれていました。一番左の道はくらくて細いけど、あとの二つの道からは光がもれていて、明るくてひろそうです。でも、左だよね、左、といいあってハンドルを左にきりました。細い道にに入ると、ガラガラ、おとがしてシャッターがおりました。あ、しまった、でもまあバックできないから関係ないんだけどね。そう話していると、トントン、あれいま肩叩いた? え、うそー? コツン、何かが頭にあたりました。上を見ると、ロープを結で輪っかをつくって天井から吊るしてある。あぶないなあ、くびが引っかかったらどうすんだよ、まあそんなに座高の高いやつはいないけど。
 また三叉路。左側の道にいこうとすると、革靴のこつこつなるような音がして、ひよこみたいな帽子をかぶって、ランドセルをせおった子どもの人形が横からすべりこんできて、道をふさいでしまいました。よけようとしてとっさにハンドルをきったけど、車は人形をぱたんと倒してすすみます。そっか、車はレールの上を走っているだけだから、ハンドルはただのかざりなんだ、Aさんはいまさら気づきました。道を進みながらふたりは、なんかくらいだけでなんにもないね、と話しました。あ、だれかたってる、また人形かな、ほんとだ、案山子みたいな? 近づいていくと、いやちがった十字架だ、花がそなえてある、だれかのお墓ってこと? なんか字がほってある、な、そんなもん読まなくていいよ、なんか気味わりーよ、え? だってお化け屋敷だもん、しようがないじゃん。
 道が3つにわかれていて2つは明るくてなだらかで、ひとつはくらくてせまいです。
なあ、明るいみちいこうよ、え? 無理だよ、車おりれないでしょ。
 細い道に入ると落書きだらけの看板がありました。国道122号線、なしもとけずる、なにこれ? と彼女はいいましたが、Nさんは頭を抱えてこわがっていました。どうしたの? 梨本さんちの長男けずる君、ランドセルに書いてある名前をみたんだ。なにそれ大丈夫? おもいだした、子どもをひいたんだ、殺したのはおれだ。あ、駅が見えました。もう大丈夫です。お忙しい中すみません。ありがとうございました」できれば振り出しに戻り頭のてっぺんに鳩のフンがつけられていることに気付くこと。


散文(批評随筆小説等) 映画:ホラーハウス Copyright ああああ 2011-03-02 02:19:33
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