オーシャンブルーの庭師たち
kawa

「星を売っておるのです」

 私の訝しむのを見てとって、男は微笑み、付け加えた。

「簡易プラネタリウムを運んでおるのですよ。あちこちの小学校や講堂なんかを回って、組み立てて、簡単な解説をするのですな。病院へ行ったこともありますよ」

 私はああ、と頷いた。

「しかし物足りぬですよ。人工の光は、現在の光ですからな。本当の星の光は、すべて過去の光でしょう。その中にいる安らぎに比べたら、お遊びみたいなものですよ」

 太陽の下で、星の話をするのは、幾らかちぐはぐなものだった。青空の向こうにも星はある。それは紛れもない事実だ。ただ太陽の光が強すぎて、見えない。日中に星を見たことがない、という未経験が、事実を幻にしてしまう。しかし逆ではないか。私は、

「あなた、あの空に何が見えますか?」

 と尋ねてみた。男は少し空を見て、それから透明な殻になった。私は太陽のない地球を想像してみた。それは変わらず青かった。



自由詩 オーシャンブルーの庭師たち Copyright kawa 2011-03-01 20:37:02
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