벚꽃 / ****'03
小野 一縷

配給された その竹槍で 何が 刺せるのですか
高射砲の弾丸も届かない
遥か 雲の上 から 無差別に 奴等は爆弾を投下したのです

あなたのヨイトマケで どれくらい深い 穴が掘れましたか
その穴も防空壕も役立たない
大量の 糞尿を 爆弾のように 奴等は降らせたのです

そして こんな風に 奴等は 言っていたんです
「いやあ 思惑通りだね ふふん」

パソコンのモニターに向かい チャットなんかしつつ ウイスキイなんて啜りつつ
「いやあ 全く 気分が いい」

高みの見物よろしく エアコンのきいた 快適な 部屋で
「下種共と 対話なんて面倒 会話なんて無用 理解なんて不要」
「賤民どもを やっつけて 差し上げたんです」
「暴力? バカ相手に そんなバカなこと する訳ないでしょ」
「これは粛清ですよ 相手はただの世間知らず バカ共なんだから」

姉さん 
これが 思想ですか 主義ですか
その かじかんだ手で 繕っている 防空頭巾
一体 なんの役に たつんですか

兄さん
短気なあなたは 誰に言われるでもなく
ナイフすら持たず 独りで 突撃しました
寒い季節 コートの襟を立てて ギラギラした眼で

--- 

突然 カチコミされた 首謀者の一人
酒とカロリー過多 運動不足で ブクブク太った その貴族は
エーン エーンと 泣きました

「ボク悪くないもん!!」
「ボクだけがなんで責められるのさ!?」
「ボクの家に その汚い足で上がらないでよ!!」
「ワーン 言いつけてやる パパママに エライ人に 言いつけてやる!!」
「在日のくせに!!」

その高貴な育ちゆえに 彼は 兄弟ケンカすらしたことがなく
当然 殴られたことも 殴ったこともなく
女の子の手みたく その拳には 一つの傷もありません
いや 女の子の手にだって もう少し 傷があります

痛みって感覚を知らなかったのです
傷つけられるって事に 彼は無縁で育ったのです

さて
この ナグリコミには とりまきの 下女共も驚きました
けれど ハっと 我にかえり
その豚の主を 守る為に 得意のヒステリイ光線で
たった独りのゲリラを 集団でとり囲んで 集中攻撃です

「きぃぃぃ きーぃぃぃっっ ムキィィィ」---光線発射音
「おぼっちゃまに無礼をはたらくなんて 死ね 死ね 死んでしまえ」
「在日のくせに!!」

ボロ長屋に帰ってきた兄さんは 傷だらけでした
外傷は無かったけれど 心は ボロボロ

何が効いたかというと 下女共の攻撃ではなく
その豚貴族のヒヨワさ だったそうです
どれほどのツワモノかと思って
刺し違える覚悟で 行ったら
そこに居たのは 猿山のテッペンでオナニーしてる豚だった と
そこで更に目にしたのは その豚のチンコの傷
ああ 彼も傷つく感覚を知っているのだな と
コスリ過ぎて チンコがアカギレしていた と

可愛そうになって 前より酷く失望して 兄さんは 帰ってきました

---

兄さん
今 戦地でどうして いるのですか
決戦の日が 決まったと聞いたけれど
毅然としているのでしょうね
兄さんは そういう人だから

兄さん
教えてくれましたね
「キムチ」って発音は 間違っていること
「アリラン」の情感を「ノンアクカラク」のリズム感を

兄さん ぼくが
「詩ってコミュニケイションの道具なんだよね」と言ったら
烈火の如く 怒って
「お前にとって 詩は その程度か?」って
ぼくが 今こうして詩人になれたのも 兄さんのおかげです



姉さん
本当ですか
これ 兄さんからの ・・・手紙ですか


 私を乗せて出撃する 特攻機は
 爆撃機のいる高度まで上昇できない 大きな爆弾を積んでいるからだ
 この爆弾は 落とす為の ものではない
 彼らの豪華客船を沈没させる為のものだ
 そしてこの特攻機には 帰りの燃料はない

 私は思想を持たない論理も持たない
 そんな私を いや そんな人々を 彼ら貴族は差別する そして滅亡せんとする
 そのやり方はいつも通り 裏掲示板で自作自演で根を回し 
 自ら出撃することを避け 素直な新兵や 好印象を植え付けることに
 成功した婦人兵を 例の爆撃機に 代人として乗せる
 それによる戦果は 我のものと鼻高々に言い回る
 何せ貴族だ いつだって 高みから人を見ているし 語る
 ただ 彼らも可愛そうだ 高みの薄い空気の中でしか生きられぬ生物なのだ
 しかしいかんせん 彼らは余りにも増えすぎた
 いまやインターネットの生態系を脅かす害虫に等しい
 少しばかり駆除する

 さて あまり長くは語るまい 何せ私は無知で世間知らずだからな ボロが出る
 お前たちは 何より 健康であれ いつまでも 元気でいろよ
 今生の別れだが さようならは 伝えぬ 

 
   つぼみ見て われ先に散る 虫共と     


                 
--- 19**  2/20  叙 梗爾 ---


 

兄さん
もうじき また春が やってきます
後で知ったのですが 兄さんが搭乗した特攻機の名は
「桜花」というのだそうですね
この長屋町で 桜の花が咲くのも そう遠くはなさそうです
けれど 兄さん
桜の木には また今年も 虫がいっぱい付きそうです
花が散るより早く ぼくは虫共を皆殺しにします
桜に害なす 汚す存在を ぼくは許しません


姉さん
まだ昼だけど 飲もう
今日は兄さんが 己れの主義に殉じた日だもの
そうだな ぼくは「日置桜」が飲みたいよ





自由詩 벚꽃 / ****'03 Copyright 小野 一縷 2011-02-27 14:52:47
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