[pass:mrKg9osnj]
凛々椿

私の母は奇跡を起こした
汚染された体でふたりも子供を残しどちらも大人になった
母は最大の炭坑の町で生まれ育ち
彼女の父は炭坑夫で体中を癌に冒された
彼女のきょうだいもみんな癌に冒された
きょうだいの中で子供を産めたのは母だけだった
母に会うたびにきょうだいが口をそろえた
子供がほしい
子供はいとおしいと
きょうだいは死んだ
みんな死んだ
きょうだいのひとりが大学の実験台にされ
原因が炭坑の汚染と認められた
でもみんな死んだ
死んでいった
どうしてと泣きじゃくりながら


ねぇお母さん
私 子供の産めない体だった
あなたの遺伝かどうかはわからないけれど
あなたのきょうだいと同じよ
出来損ないと言われたの
とても悔しかった
今でも毎日のように思う 
子供がほしい 
子供を抱きたいと 
でも本当は 子供なんかいらないの
それはなぜかは話せない
あなたなら分かってくれるね
あなたはたくさんの肉親の死を見たのだから


母が死ぬ日まで 私はこのことを黙っていようと思う
でもひとつだけ
私は奇跡の人の子供でよかった
ただただそう思うの 風がつよく吹いて
髪をみだして
ほおにふれて美しいと思えるそれだけでも 
こんなにも幸せなのだから






自由詩 [pass:mrKg9osnj] Copyright 凛々椿 2011-02-24 00:06:24
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