月のとびらとうそ
ズー

わたしのベッドが
まだ、暗い空に
飛んでいきます
頭から夜の続きに
衝突して
夜が砕けていく
「すみません。さむいからおろしてください。」
ささやかな願い事にも
毛布を巻き付けていた
わたしを乗せて
だらしなく乱れた
シーツの端から
軋んでいる四本足が
見え隠れしていました


ここらへんの朝は
わたしのベッドの
仕業なのです



どこかでせき止められた
車や人のせせらぎが
ひとつ、ひとつ
濃淡の異なる夜を
終わらせる為に
ぶんべんしつ、
そういう、なまえの
場所に集まって
お互いの話しを
興味もないのに
交換していた
僅か数時間の
苦しみの前に
睫毛がどうのとか
親がどうのとか
どの会話にも
季語などなくて
咄嗟についた、うその
ようでした

それは
わたしが
夜のかけらを
集めている間も
途切れないのです



朝になりそこねた
街の光の
ひとにぎりと
わたしのベッドを
午前5時の
月のとびらが
飲み込むように
連れ去っていくと
せせらぎたちは
濃淡の異なる朝を
終わらせる為に
ぶんべんしつで
いきみ始めました



でもね

月のとびら
なんて
本当は
なくて(うそ
ここらへんの夜の
ここらへんの朝に
ベッドは
ちゃんと
あったから
四本足の軋みに
似ている
その声の中で
わたしは
わたしを
毛布に
巻き付けている
うそっぽく
ささやかに
始まる朝に


自由詩 月のとびらとうそ Copyright ズー 2011-02-23 12:23:40
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