ノスタルジックな軽便鉄道の駅頭にて
石川敬大




 草のなかにレールをみつけた
 錆びた鉄の平行な二本線が
 弓なりに
 ここから延びていた
 または
 この草のなかで
 すっぱりと裁断されて尽きていた

 あおぐらい記憶の軽便鉄道の小さな駅頭で
 いつくるとも知れない列車を
 待っていたことがある

 いつのことだったろう、おぼえていないが
 でも、もしかしたら、それは
 読書体験か
 夢だったのかもしれない

     *

 あおぐらいホームの端の
 赤いシグナルが空にむかって点滅すると
 いつのころからか失っていた大切なオモチャの列車が
 ガシガシと白い煙をはきながらやってきて
 あっけなく
 ぼくの透きとおった身体を
 通りぬけてしまった


 それっきりだった


 木の間がくれのむこうのほうで
 赤色灯がみえた
 その淋しげな信号の点滅を
 遠ざかる列車の尾灯だと勘違いしたのは
 もうひとりのぼくのどんな悪企みだったのだろうか

     *

 かつて草を靡かせ風を切って列車が走った
 弓なりに延びる桜並木に
 熟柿の夕陽が沈んでゆく
 さいしょの星もまたたくようだ
 ベンチに転っていた錆びた鉄杭のあの川映えのなかで
 ぼくは
 ただボーゼンと
 たちつくしているだけだった






自由詩 ノスタルジックな軽便鉄道の駅頭にて Copyright 石川敬大 2011-02-23 01:32:37
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