ノスタルジックな軽便鉄道の駅頭にて
石川敬大
草のなかにレールをみつけた
錆びた鉄の平行な二本線が
弓なりに
ここから延びていた
または
この草のなかで
すっぱりと裁断されて尽きていた
あおぐらい記憶の軽便鉄道の小さな駅頭で
いつくるとも知れない列車を
待っていたことがある
いつのことだったろう、おぼえていないが
でも、もしかしたら、それは
読書体験か
夢だったのかもしれない
*
あおぐらいホームの端の
赤いシグナルが空にむかって点滅すると
いつのころからか失っていた大切なオモチャの列車が
ガシガシと白い煙をはきながらやってきて
あっけなく
ぼくの透きとおった身体を
通りぬけてしまった
それっきりだった
木の間がくれのむこうのほうで
赤色灯がみえた
その淋しげな信号の点滅を
遠ざかる列車の尾灯だと勘違いしたのは
もうひとりのぼくのどんな悪企みだったのだろうか
*
かつて草を靡かせ風を切って列車が走った
弓なりに延びる桜並木に
熟柿の夕陽が沈んでゆく
さいしょの星もまたたくようだ
ベンチに転っていた錆びた鉄杭のあの川映えのなかで
ぼくは
ただボーゼンと
たちつくしているだけだった