横須賀の港でぼくは猫にうんざりしていた
石川敬大




 猫のようなKといると
 ぼくの言葉の文脈は乱れふあんな小波が打ちよせてきて
 とても平叙文ではいられなかった

 煎じつめれば
 煎じつめなくても
 Kは妻で
 Kは猫だった


 といっても
 家事一切をしないという意味ではない


 ぼくはKと結婚した
 猫と結婚したわけではなく
 Kはぼくになつかなかった
 自分勝手だった
 気まぐれだった
 じぶんに正直だった
 と言いなおしてもよいのだがふりまわされた

 離婚は
 だれの目にも時間の問題と思われた
 恋人のままでいたかったのにと言われて離婚した
 Kの母親との二世帯住宅を建てたけれど
 ぼくが出ていった
 Kの実家の土地だったから


 横須賀に住んだ
 京浜急行で通勤した


 イージス艦だか駆逐艦が民間人の目を灰色に拒絶していた
 港にも酒場にもМPと日本人の娘と米国軍人がたくさんいた
 夜の繁華街を赤ら面で歩いていた
 カタコト英語で黒人と語りあったことがある
 母国や家族とはなれてさびしいとかれは泣いた
 ぼくもここではひとりだった

 横須賀の港にも
 のら猫がたくさんいた
 でも
 もうぼくは
 どんな猫にもうんざりしていた






自由詩 横須賀の港でぼくは猫にうんざりしていた Copyright 石川敬大 2011-02-19 12:57:11
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