ぼくは帰る / ****同
小野 一縷



僕が火傷をした子供の頃
母さんは泣いてばかりいて ばあちゃんにきつく接するようになった
父さんは酒を飲むようになって 母さんと喧嘩ばかりしていた
じいちゃんは無口になって そのまま死んでしまった
だけれど
ばあちゃんは変わらず ずっと優しい
それは今も変わらない

僕が家を出ていってから
兄さんが馬鹿なことをして離婚した
父さんは兄さんに怒った
父さんは母さんにも怒った
父さんは僕には何も言わない
父さんも僕も意地っ張りだから
何も言わないし 何も聞かない

僕はここで一人随分歳をとった
僕は全く立派にならなかった
何も頑張らなかったので 当たり前だ
だけれど
まだ格好つけたままだ 阿呆で意地っ張りだから
馬鹿みたいなことばかりして すっかり体を悪くした
だけれど
ばあちゃんはいつも僕のことをじいちゃんに拝んでいた
僕の火傷のことを気にかけて
僕はそれで辛くなったことなど一度も無いのに
だけれど
ばあちゃんは拝んでいた ばあちゃんは何も悪くないのに
僕みたいなろくでなしの為に

だいぶ耳が遠くなったばあちゃん
電話で僕に「彼女は元気か」と聞いてきた
「別れたよ」と言ったら「まあ どうして」って
いつも僕のことをじいちゃんに拝んでいたのにと
いつも僕のことを仏様にも拝んでいたのにと
僕みたいなろくでなしの為に

ばあちゃん
僕は帰るよ 雪の中
誰も知らない 僕だけが知っている来た道を

ほら 凄く吹いてきたよ
だけれど ほら まだ かなり家は遠い
寒さが厳しいけれど 顔を伏せずに
乞食の犬のように あっちへこっちへ いくら吠えても

見てみろよ
地吹雪の向こうに
阿呆みたいにさ
子供の頃の僕が 笑ってる





自由詩 ぼくは帰る / ****同 Copyright 小野 一縷 2011-02-19 02:34:36
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