感謝を
salco

いつからか
「小野 一縷」という名を目にすると迂回して
その日の最後か翌日に読むようになった
覚悟を要したからだ
突きつけて来るのが本当の別世界だったから、
背筋を伸ばして対座せねばならなかった
しばしばそれは陶酔というより
瀕死の緊迫で私を脅かし
放埒なイメージと色彩の重力に満ちた言葉の
一つ一つの放射、一節一節の握力が
漫然と聞き流すことを許さず
まなじりを決して読み込む労力を要求した
水面の直下にきらめく圧倒的な幻惑や
地獄の宝石を間近に凝視するかのような嬉しさの半面
だから厭わしさを覚えた
余りにもかけ離れた場所を生きた、
生きざるを得なかった彼の
孤独の位相で繰り広げられる、
淀みない意識の滴下と自在な語彙の放散に直面させられるのは
息を呑むほどの目眩つまりは酸欠だった

こんな人がいたのだという覚醒はまた
作品を離れてさえその存在を記憶し続け、その死を
哀惜し続けなければならない愛着を私にも強いる
その作品が投稿されない現在はだから気が楽なのだが、
彼の生が懐かしくてたまらない
かけがえのない、途方もない宝もの
アンタッチャブルの恐ろしい財力を見せつける、
救い難いほど詩人
ふざけた野郎
今までで一番「しんどい」男 Tさんに逢いたい
Tさんが懐かしい
非在に眼を見開いたその息遣いが、会った事もないのに
部屋を共にしたほど懐かしい
砂漠に潰えた冒険家、北極星ほど寂しく無縁に遠い
アシッド・サン=テグジュペリ 
ひとりぼっちの郵便パイロット

一縷さん、心からありがとう
貴方は感謝し尽くせない恩人です
私の後半生にとって最も尊い詩人の一人、
とんでもない実質を紹介して下さった
へとへとになるので滅多に読み返しませんが、
御紹介頂いたサンクチュアリへはちょこちょこ、半ばこわごわ伺っています
私は幸運ですね
邂逅の喜悦を総て彼にひっさらって逝かれた貴方と違って


自由詩 感謝を Copyright salco 2011-02-13 22:27:21
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