雪の日
salco

灰色の身篭った天空の核に
ぼんやりと繭を透かして
眠れる生命の淡い黄金が
そこだけ温度を伝えている
しかし雪は後から後から降っている
無心な子供のダンスのように
無数の白で地を照らしながら埋めて行く

延々と続く柵向こうには一本の道
白夜と同じく、雪によって夜は
大気に染み込む事が出来ない
今夜、
私は幻想世界で覚醒しており
零度に晒した眼球は水晶となり
天と地に介在する白だけを
生命を持つかのような降雪を見ている
凍りついた現実世界は
熱にうなされて狂おしくまどろむ
此処は画布の国より一層優しく神秘的だ

雪は後から後から降り、そして
足音を持たぬ影のようである私
狂女オフィーリアの魂のようである雪
静謐の水底で杉の木立が一振り身震いをする
鳥達は膨らませた羽毛を寄せ合って
枝々に平安と空腹の夜を送っている事だろう
宙吊りのグレイな夜の中で
私も時計は無い

雪は後から後から降りしきる
それは女が振り返る、
その刹那の永遠のリフレインのようだ
雪はその際の、
振れ動いた髪の毛の微かな音と
風を立てて降る
とめども、とめどもなく
とめども、とめどもない
オフィーリア
彼女の狂気も亦、このように仄白く
ちりぢりで無心であった
ちじぢりの、音を失くした笑声を響かせていた
それは、とめども、とめどもない白の
無垢なる無音の歌であった
とめども、とめどもない
狂えるダンスであった

リフレイン、リフレイン、リフレイン
軽やかに軽やかに
流れまろびつ遊びつつ
狂った頭で絶望を捨てた
脱ぎ捨てよ脱ぎ捨てよ
杉の木立の禍々しい闇を駆け抜けて
裸足に音も跡も無く
仄白く光りつつ
駆け出せよ、体重を脱ぎ捨てて
心さえも脱ぎ捨てて
魂のように
魂そのものとなりて軽やかに、とめどなく

私は、柵向こうにかつて在った一本道の
緩やかな勾配に独り立っている
何かを思い出し、誰かを待っている
目を閉じて
氷のように固く閉じて待っている
この頬に白く
温かな吐息が触れて来るのを


自由詩 雪の日 Copyright salco 2011-02-11 21:53:06
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