My kitten has kittens in the kitchen.
木屋 亞万
黒猫を追いかけろ
目の前を通り過ぎようとする
猫を
まだ小さな
毛先の乱れた黒い猫
この目の前を横切らせてやるものか
追いかけたら逃げていく
追いかけるから逃げていく
笑っているのか泣いているのか
鳴いているのだけど
どちらかわからないのだ
人間には
待ってくれよと思うけれど
それは
その思いに反して
猫が逃げ続けることを
期待して出た言葉
追いかけ続けるから逃げ続けろと
私の中の猫は願っている
鳩尾の奥で腸に繋がれている私の猫が
血にまみれては乾き
また濡れては乾いてを繰り返しながら
くろく黒く汚れていった私の猫が
身震いするたび
人の血の瘡蓋が舞う
黒猫が跳ねた
身体を細長く伸ばして
アスファルトからコンクリートブロックへ
そのまま塀に駆け上り
屋根をつたって逃げてしまった
最終的に猫は
私の前を通り過ぎなかったのだから
それで良いではないかと
私が私に言い聞かせていると
鳩尾の猫は何もいわず身体を丸めた
翌朝
冷蔵庫から牛乳を取り出したとき
鳩尾の猫が急に暴れだして
紙パックが手から零れ落ちた
倒れたパックから
ドアが半開きの冷蔵庫の下へ
白い液は流れていった
どこかへ逃げていった黒猫は
駅のプラットホームで
ゴミ箱からこぼれでた牛乳を
うまそうに舐めている
私にはそのことが何となくわかったので
関係あるはずもないのだけれど
牛乳をすぐには拭かないことにした
ひとしきり猫が牛乳を舐めきったと思った頃に
赤ん坊のように箱からティッシュを暴き出して
白濁の液をかき集めた
腹の中の猫は
自らの手をぺろぺろと舐めて
その身体が実は白い毛に覆われていたことを
そっと私に示してくれた
ごろごろと腸がなる朝
今日は猫の機嫌が良い日だ