ベンチで
……とある蛙

施設の中庭のベンチで
ゆっくり日向ぼっこする
老人達の独りが
突然立ち上がって何かを叫ぶ

こんな筈ではなかったと
こんな方向でなかったと
こんな場所に来るはずではなかった
こんな終わり方ではなかったと

老人達は友達ではない。
ただそこで余生を送っているだけで
そこに集められただけで

まるで小学一年生のように
何もかも分からずじまいで
突然一括りの集団にさせられて

老人達は別々の人生を歩んできた
全く別々の人生を歩んできた
その収容所に入るまで
仕事も
家庭も
育った場所も
環境も
全て違う人生を歩んできた
それでも一括りの集団にさせられて

やがて老人は失せて行く記憶の彼方に
若い時の自分を見るのだろうか
失せて行く記憶の彼方に
自分の家族の団欒を見るのだろうか
失せて行く記憶の彼方に
自分の両親の笑顔を見るのだろうか

良くできたわねぇ
えらいわねぇ

あらっ笑ったわ 
かわいい子


自由詩 ベンチで Copyright ……とある蛙 2011-01-26 16:48:12
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