poetarot(女帝のカード)保存版
みつべえ

あなたは、君臨する。おとこの、欲望の筋肉に。旅人の、ではなく。農夫の土地に、金星の種を蒔く。収穫し、貯蔵して。子々孫々まで、支配する。



わたしの偶像、わたしの。ふくよかな、母体よ。あなたの笑い声に。統治されて。長いこと、ねむって。いたかった、けれど。歳月を、揺り動かす手に。めざめて、歩きだす。秋の収穫のために、ではなく。ひたむきに。夏を消費するために。



おなか、やぶれそうよ。もう、出してもいいかしら。花の園で、あなたは。新たな、世界を産みおとす。明るいにせよ、暗いにせよ。与えるべき祝福は。ただの。風のような、言葉にすぎぬ。ごめんなさい。わたしは。それしか持たぬ、種族の末裔だから。



あなたが、わたしの耳に。キーワードを告げると。わたしがわたしだと、思っていたものが、瓦解する。そんな、あやうさの、なかだからこそ。世界は、風に切られて。ほとばしる、血潮のように。美しい。



ユーカリの。葉にも似た芳香に、誘われて。迷いこむ路地の一角。古びた洋館の、生垣に。銀梅花は。星座のように、つらなり。わたしに向かって、いっせいに。発砲する。



踏みつけてください。その。権威の足で。群衆は、抗いがたく。あなたに、すり寄る。むち打ってください。それでも。あなたは、愛される。けれど。愚者だけは、雲のように過ぎる。超然と、ひとり。めざめて。



だれの心にも。暗い川が流れている。それは、だれのものでもないから。あなたは、あなたの秘密を愛せ。わたしは、まいにち。素手で。夕焼けの皮をむき、追憶のなかみを。たしかめてから、眠る。



やわらかく。権力を淫靡して。法の名のもと、ひそかに。捕獲、隔離する。しかるのち。順送りに、処分する。臣民は、だれも。わたしの命令を待たずに、癒されては。ならぬ。イヌネコに。



門番には、もっとも信頼できる者を。牛の王が、訪ねてくるから。黙って、わたしの。柔軟な、夜の密室へ。もしも死んだら。秘部には、没薬を。超絶技巧で、あらゆる。体位を実技する。あああ、朝が。もういちど、世界を。取り戻すまで。



みずうみは、その底に。つめたい鏡を、沈めている。光は、屈折することで正しく。わたしの、脳にとどく。夜が夜であるために、花が花であるために。すべてがすべてであるために、すてたもの。いっさいがっさいを、ひろって。隠者は、塔を建てる。



あなたのためには。死ねない。花が、凋落するように。うつくしくは、終われない。従順だった、季節の感傷を。日めくりみたいに、破りすて。ただ。過ぎゆく鼓動と、呼吸を。たえるだけの、わたし。だとしても。



そこ、まだ煮えてない。ちょっと待ちなさい。とりわけてあげるから(あなたは、秩序の総覧者、鍋御前)いいこと、このさき。がまんできないことがあっても、勝手に死んじゃだめよ。わたしの許可を。とってからにしなさい、こどもたち。



その塔は、墓碑に。似ているが。モニュメントの、たぐいではない。展望台のように、のぼっていけるが。どんな風景も見えない。最上階に、権力者の。あしうらの皮を敷いた、長い舌をもっているが。その象徴の意味を、呪いながら。あなたは。首だけを残して、落下する。



ぼくは、はるかな。砂の星の、あばら骨を。発掘する現場で。ともすれば、主人をかえりみない。わがままな猫を。きみは、忠実な。命令とあらば、きみ自身をさえ。喜んで、裏切る犬を。飼っている、ぼくらは。死ぬまで、友だちである。



おまえも、トシをとったら、わかるよ。なんて、言い方は。しないぜ。それじゃ、まるで、おれが。トシみたいじゃないか。みんな、ちがう経路で、歳月をかさねる、のだから。おれの経験は、おまえには。参考に、ならねえぜ。ふん。同じ生き方を、したいと。いうのなら、べつ、だが。



風が吹く。木々はゆれて、空を撹拌する。紙の船は、方位をうしない、月に座礁する。汽笛を鳴らし、星の冠を捨てる、言葉の。身軽になるために、いっそ言葉そのものになって。すべての桎梏から、離脱する。そして、わたしという重量を、はるかな雲海の。うず潮の中心に、廃棄する。



流星の夜に、あらわれて。わたしを魅了した、仮面の男が。少しの間、預かってほしいと。おいていった、青ざめた馬を。まいばん、自力で洗う。いつか、これに乗せられて、事象のかなたへ。去るのだと、ときめきながら。



迷走しつつ。それでも、歌う。偶像の。だれも、指。ふれることの、できない異境の、ステージへ。盲目なたましいが、殺到する。名もない熱の、総量をひきうけ。ひらかれる、億の、光輝の。その奥の、あなたが真に、ブラックホールなら。わたしは、全骨格をもって。あこがれる。



月を鏡にして、わたしは。太陽を見ていた。きらびやかに、孤独な。権力の、血統の、逸話を。積み上げては、突き崩し、あなたは。火焔のなかに、冷たい夜を。さぐっていた、わたしたちは。まさぐり合うばかりで、世界の。終りまで、出会えない。



何かに追われて。逃げこんだ路地に、ひっそり。耳が生えていた、わたしは。愛を語りたくて、そこで。きのうまでの、自分を。死ぬほど、げえげえ。吐いた。



こころは。紙よりも、うすい、と。あなたは、言うけれど。わたしは。こころ、よりも。うすい、から。風に、切りきざまれて。無窮へ、とばされる。日も、近い。



そしてまた、星が巡ってきて。生傷を、ひらく。わたしとは、被虐の総体。ほかの誰でもない、ゆいいつの。夜の演技者、幸福の、絶望の。仮想された、世界の舌のために。寝室を、造花で飾って。どこまでも、避けられない。希望の朝を、色とりどりに。詐称する。


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自由詩 poetarot(女帝のカード)保存版 Copyright みつべえ 2011-01-24 23:59:32
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