理由もなく昔の女と食事して
……とある蛙



昔の女などとゲスなことをいう僕
君の唇は
刺身を受け入れるため開かれて
刺身を咀嚼する際の唇の動きに
見とれている僕は

一個の変質者


一〇年ぶりにあった君は
食事の手を休めて微笑んだ。
僕が君の唇の動きばかり
追っているのに気がついたからだろう。

君の瞳は清々しいが
目尻に相応の皺があり、
僕の知らない時間は沢山刻まれていて、
近況を言い合っても
その言葉など何も頭に残らない。

中空を漂った言葉を目で追うことはなく
僕はただ君の唇を見つめる。
靄のかかった空気は過去の絡み合う
己の姿を抱いたまま
君の唇を見つめる。

しかし

僕自身の曖昧な生活を恥じて
何も言い出せない自分と
目の前にいる君に対する思いが
全く交錯せず別れた
さよなら

お幸せに。


自由詩 理由もなく昔の女と食事して Copyright ……とある蛙 2011-01-18 12:19:57
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