睦びあう睦月
小池房枝

吹雪いてた処も多かろ、此方ではこれが初雨。静かに優しく。

舞い上がった正月埃をほんの少しほんとに少しの雨が鎮める



恋人は何かの匂いのひとがいい焚き火の匂い潮風の匂い

失くしたか失くしてないか分からないままになってる銀色の指輪


電柱は温かいのか一本を背負ってスミレがちょこんと咲いてる

寒いのに空が高くてオオイヌノフグリがどこかで咲いてると思う


ケータイで猫をこすって充電もできて火花も飛んだらいいのに

やぁ久しぶりだね咲いたね車窓からあざみ野駅の梅に挨拶


午後四時半。水族館で退社待ちサラリーマン顔していたペンギン

苺狩りハウスの中からぬくぬくと苺も外の雪を見ていた



多い布フグリってそれじゃふんどしじゃん琉璃唐草よ星の瞳よ

公園を一周すると四十個咲いていましたオオイヌノフグリ


いつ水をやればいいのかパンジーは凍土に伏して天水を待つ

いつ餌をやったもんだかベランダのカメリー視線を投げかけては来る


草原の支配者カピバラこの国の動物園にて温泉に浸かる

さめざめと氷雨季節を戻そうと降るので木々はそっと浴びてる


月は今、西から東へ太陽を渡るとこです気をつけてお行き

よく冷えて帰って来たネコ花の香にも気づいたけれどもう夜だからね



ゆるすというこの字のこれは打つであろ?しゃくしゃくと赤く何をせよとや

折り紙の方舟いくつも乗り継いで海やまのあひだ海やまの限り


あかあかと夕日は朱色の粉吹き芋雲からさかんなコークスが覗く

陽は鉄の熔けた色して夕空に大きな鍛冶屋が雲を展べてる


ぬくい日はサクラもぷっと膨らんで夜には縮んで忙しかろうな

列を成す丘のキャベツは花嫁の緑のブーケにちょうどいいかも


一月の朝日は部屋から朝ごとに退いて行きます外を照らしな

脱字所で文字一つずつ脱ぎ捨てて街で裸の風を浴びよう



逢魔が刻春の不思議は夕景に蠢く藤城清治の木蓮

さくらたち今年もどれも咲いて出るやる気一杯で冬の芽冬の目


佐渡越しにウラジオストクが見える日が冬にはあると新潟のジョーク

雪という言葉を持つ国、持たぬ国。消える国そして新たに知る国


過ぎてから思い出すひとの誕生日グレアムきみは先月だったね

真紅とだけ聞いて姿を思ってた香りも知らぬエナ・ハークネス


海にある真珠の色を順々に全て纏って輝く満月

金星は朝当番です夕方の一番星を誰かお願い



どれほどの花を孕んでか天からは百花の王の繚乱と降る

咲きそこねた梅が横向いて怒ってる今日は雪だよも少し待ちなね


ビッグバン以前の何かの微かなるデブリなのかもダークマターは

とも座ほ座らしんばん座が見えている何処へ行こうか星々の中を


飛ぶのなら飛び降りるのが簡単だ我もバベルの塔の一塊

一かけの蜜柑のような半月が電信柱に置かれていました


春やあらぬ花の香にあらぬ早過ぎるけれども風に何かが溶けてる

止んでからやっと気づいた昨晩の雨は何かをほどいていった



洗ったらネコふっくらして良い匂い数本ヒゲがヨレちゃったけど

違う星の神さま、私はここにいます。私たちと、そして人間たちも




短歌 睦びあう睦月 Copyright 小池房枝 2011-01-17 23:58:08
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